愛しさで溺れそう。

愛しさで溺れそう。


 ミシャ(業)は、


「――かごめかごめ――」


 つぶやきながら、

 禁止魔カードを破り捨てる。


 すると、


 P型センキーの全身がガっと熱くなって、


「……ぐっ……」


 極度の脱力。

 全身の奥から、魂魄を引っぺがされるのを感じた。


「む、だだ……センエースは隔離してある……心を殺す事だけに特化した異次元――『イタズラな領域外の牢獄』……たとえ、『かごめかごめ』でも、手出しは不可能……」


「そんな事は知っている」


「あぁ?!」


「取り戻すのは『可能性』……」


 言いながら、

 ミシャ(業)は、その小さな両手を、P型センキーに向けて、



「大事な人……とてもとても大切な人……守ってくれた……あんたは、たくさん……」



 大粒の涙をながしながら、

 一度、飲み干すように、目を閉じて、





「……愛(いと)しさで溺れそう……」





 そうつぶやいてから、

 ギっと目を開き、



「幾億(いくおく)の……刃のように、冷たい涙……

 必死になって、飲み干しながら……

 無限の痛みを心に背負い……

 それでも、あんたは……あたしなんかのために……」



 膨れ上がる想いに推動されて、


「必ず守る。あたしは、あんたの側にいる。そのために、そのためだけに、『私の全部』は存在している。たとえ、『他の全て』を忘れても……この誓いだけは……絶対に、絶対に、絶対に忘れない!!」


 ミシャ(業)の叫びに呼応して、

 P型センキーに飲み込まれた『シューリ』と『アダム』が拍動する。

 心と魂魄が、ドクンと強く脈を打つ。


 強く、強く、強く!!

 強く、強く、強く、強く、強く!!!



(くっ……くそ……これは、ムリだな……神気の行使は、センエースの隔離だけで一杯一杯だ……アダムとシューリをとどめておくことまではできない……)



 鈍い汗と歯ぎしり。

 P型センキーは、無駄な抵抗をやめて、

 自分の中から、

 アダムとシューリを切り離した。


 P型センキーの魂魄から切り離された二人のコアは、

 ユラユラと、一度、迷子になりかけたが、

 しかし、

 ミシャ(業)の、



「……こっちだ、バカ女ども」




 強い叱咤を受け止めると、

 もう迷わず、

 まっすぐに、ミシャ(業)をもとめた。


 重なった、

 三つのコア。


 ミシャ(業)と、アダムと、シューリ。


 異質なオーラを持つ三人の女が、

 今、この時、この瞬間だけ、






「「「……抗えなかった悔しさで、涙を流しているのが分かるよ。はは……『あんた』は本当に……いつまでたっても、『泣き虫』だね……」」」






 声は、少しだけ重複していたけれど、

 すぐに、調和されて、


「大丈夫。すぐに出してあげるから……」


 ――一つになる。


 それまでとは、何もかもが異なる、特異なオーラ。

 闇が混じっているけれど、おどろくほど温かい。

 冷徹だけど、芯はポカポカしている……そんな、歪な光。


 ――ミシャ(業)は、

 ゆったりと武を構えて、


「どんな絶望を前にしても、決して諦めなかったヒーロー……あんたは、あたしの光……あんたがいないと、あたしはただの骸(むくろ)……だから、あたしは……あたし自身のために、死んでも、あんたを取り戻す!!」



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