ミシャンド/ラ(業)。

ミシャンド/ラ(業)。


 センエースの携帯ドラゴンは、

 グワっと天を仰ぎ、


「きゅぃいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」


 と、まるで、何かを呼び寄せているかのように、大声で鳴いた。


「や、やかましい……なんだ……?」


「きゅぃいいいいいいいいい!!!!!!」


 全力で、

 必死に、

 決死の覚悟で、

 センエースの携帯ドラゴンは、認知の領域外を砕き割らんばかりの勢いで鳴き喚く。


「……うるさいと言っている」


 P型センキーは、イラっとした顔でそう言うと、

 そのまま、ガバァァと大きく口を開いて、

 やかましく叫んでいる『センエースの携帯ドラゴン』をバクっと丸のみした。


 ゴクンと嚥下してから、


「ふぅ……まったく……最後の最後まで、うっとうしいゴミが……まあ、しかし、これで、完全に終了――」


 そうつぶやいた、

 その直後だった。


 空間に、ビシリと、亀裂が入って、

 その奥から、






「……まだ、終わりじゃない……」






 ――『彼女』は現れた。

 禍々しいオーラを放つ、小柄な邪神。

 その死紅に濡れた邪眼は、まるで常闇を飲み込んでいるかのように鋭いが、

 しかし、纏うドレスは、その小柄な体形にマッチしており、

 乙女チックかつ鮮やかで華やか。

 体に絡みつく、邪悪なアポイタカラの蛇。

 頭部を飾る、イバラの冠が二輪。

 なんとも歪で妙なコントラスト。


 ※ 『彼女』が纏うドレスの名は『ナタリー』。

   ミシャのレオンと対をなす、究極超神器(もちろん、センエース作)。

   ちなみに、『彼女』がセンエースによって初めて召喚されたときは、

   彼女の邪悪さにふさわしい漆黒の衣をまとっていた。


 ――『彼女』の威容を目の当たりにしたP型センキーは、

 少しだけ、眉間にしわをよせて、


「……ミシャンド/ラ……」


 彼女の名前を口にした。


 しかし、すぐに、


「いや、違うな……本体ではない……お前は……そうか……」


 納得したように、一度頷いてから、


「センエースが背負った……『ミシャンド/ラの業』だな。なるほど……センエースは、散り際に、出来うる全てを『遺(のこ)していった』という事か……」


 正しい答えに辿り着いたP型センキーに対し、

 『ミシャ(業)』は、

 スっと、P型センキーの胸を指さしながら、


「そいつは……」


 本体の、愛らしい声とはまったく性質の異なる、

 おどろおどろしい声で、


「あたしの男だ……」


 狂気が滲む、闇色の声のまま、


「……かえしてもらう……」


 その宣言を受けたP型センキーは、


「……はっ……お前に何ができる」


 まっすぐな挑発を受けて、

 ミシャ(業)は、

 堂々と、






「最愛の男を、取り戻せる」






「ははっ。ハシャぐなよ、ミシャンド/ラ(業)。……ミシャンド/ラの『力の根源』であるお前は、『絞りカスでしかない本体のミシャンド/ラ』よりも遥かに『大きい』が……『ミシャンド/ラより遥かに大きい』という程度のカスが、今の俺をどうにか出来るワケないだろう。俺はP型センキー。『舞い散る閃光』と『彷徨う冒涜』が調和した姿。すなわち、究極の闇。お前ごときが――」


 と、そこで、

 ミシャ(業)は、右手を、アイテムボックスに突っ込んで、

 一枚の魔カードをとりだした。



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 その魔カードから発せられているオーラを感じ取ったP型センキーは、

 一瞬で、キっと、表情を締めて、


「っっっ?! て、てめぇ……どうして、それを……っ」


「不愉快極まりない『禁忌の邪悪さ』が、自分だけの特権だと、いつから錯覚していた?」


「……っ」


 ミシャ(業)が、歯噛みするP型センキーをにらみつけたまま、


「禁止魔カード、使用許可要請」


 そう言うと、

 ほとんど、かぶせるように、


 ――許可する――


 声が聞こえた。

 ミシャ(業)は、

 その流れのまま、


「――かごめかごめ――」


 つぶやきながら、

 禁止魔カードを破り捨てる。


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