バックドア。

バックドア。


「おお、流石にお前が表層に出てきたら、全然違うな。ええぞ、ウラスケ。強い、強い」

「どんっだけ、ぼくのこと、ナメてんだ、このクソヤロォォオオ!!」



「ナメとりゃせんよ。お前は天才や。その歳で、それだけ鋭く動けるやつは、そうそうおらん。いやぁ、すごい、すごい。頭が正常で、そんなに天才だなんて、ひゅう♪ さすが、ウラスケさんは格が違った。よっ、宇宙一」


「……このサイコテロリストがぁ……ぜ、絶対に殺したる……」


 黒い怒りに支配されると、

 ウラスケの存在値がグワっと上がった。


 その姿を見て、


「やっぱり、煽り耐性が若干低くなっとるな。あきらかに洗脳を受けとる状態――」


「洗脳なんかされとらん! ぼくは! ぼくの意思で――」


「こんだけズバっと指摘されても、まだ、わずかも自分を省みてない時点で平静ではないやろ」


「……うるせぇ、うるせぇ、うるせぇ! 余計な言葉で、ぼくを汚すなぁ! ほんと、ムカつくんだよ、てめぇえええええ!!」


 血走った目。

 胸に刻まれた闇の亀裂がドクドクドクッッと強く脈動する。


 ウラスケの頭の中が、どんどん黒く染まっていく。

 怒りが積もっていく。

 複雑なメモリが、歪に改竄されて、感情の制御が出来なくなる。


 ウラスケの顔色が蒼黒くなる。

 グチャグチャの逆上。


 覚えのない怨嗟まで積み重なって、

 心の奥で、陰鬱な雨が降る。



「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ」



 何周も回った激憤が、

 ウラスケのギアを上げた。


 集中力が、ドンドン高まっていく。

 いつまでも深くへと潜れる。

 集中力はカンストしていると思っていたが、

 まったくそんなことはなかった。


 いける。

 まだまだいける。


「はっはっはっはっハッ――」


 ある種の終着点に達したところで、

 ウラスケは、




「見つけたぞ……バックドア……」




「……ん?」


「リンク完了。最適化まであと……三……二……一……ゼロ」



 シンと、

 ウラスケを中心に、世界が静かになった。


 ピリっと、節度をわきまえない電流が先走った。



 ニィ……

 と、ウラスケは黒く笑う。

 グググっと、魂魄の芯が盛り上がっていく。


「すっげ……なんや、このアホみたいなケタ違いっぷり……どれだけあるか見当もつかん」


「……何を言うとるんや、お前」


「くくく……ぼくも、よぉわからん……けど、ぼくと融合したことで、この『ネオバグ』は、正式に、『ネオグレートバグ』に進化できた……その結果、『どこか遠くの誰か』が稼いだ『異常な量の余剰経験値』を共有できるようになったんや……」


「……?」


「わからんか? わからんよなぁ……安心せぇ。ぼくも、たいして分かってへん」


 言ってから、スっと深く息を吸って、


「タナカ・イス・トウシ……ここからのあんたは、ただ嘆いていればいい……あんたは、タナカ・イス・ウラスケという、『絶対に怒らしちゃいけないヤツ』を怒らせてしまった……だから、死ぬ。当然の話」


 グググっと、

 まだまだ膨れ上がる。


 先ほどからずっと、止まらない。


 ウラスケの芯に、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、変革が起こる。

 革命のファンファーレが鳴りやまない。

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