兄貴面するな。


兄貴面するな。


「……やっぱり、嫌いだ。あんたと喋っていると、いつもいつもイライラする」


「ド直球の同族嫌悪やな。わかるわぁ。ワシも、親戚のやつと喋っとると、いつも、なんか、この辺がモヤっとする。ウチの血筋の連中、ワシ以外、全員、キモいからなぁ」


「何度もいわせるな。ぼくとあんたは同じじゃない。ぼくは、あんたみたいな異常者と違う。極めて常識的な感性を持った、ピカピカの一般人だ」


「これは噂で聞いた話なんやけど、どうやら、一般人は自分のことを一般人って言わんらしいで。本物の天然は、絶対に、自分を天然とは認めんのと同じ。あと、同族って言葉を先に使ったんはそっちやで」


「あげあしとるな」


「とってるかなぁ? そっちが勝手に転んだだけやと思うけど」


「……おい……このクソみたいな会話、いつまで続ける気だ」


「飽きてきたか? ほな、そろそろ、意味のないお喋りはやめて――」


 そこで、トウシはスゥっと、その細い両腕で、柔らかな弧を描きながら、

 ゆるやかに、武を構え、


「バチバチの兄弟ゲンカをしよか」


「……兄貴(上位者)面するな、鬱陶しい……ぼくは、悪目立ちしたくないから、普段は力を抑えとるだけで、スペックの質でいえば、あんたよりも上なんじゃい」


 実際のところ、スペックではトウシの方が上。

 『両者を正しく認識している者』に、『どちらの方が資質的に上位者か』と問えば、誰もが例外なく、間髪入れずに『トウシの方が上だ』と答えるだろう。


 ただ、もちろん、『スペックの尖り方』がまったく違うので、ウラスケがトウシの劣化版とはならない。

 ――少し無理なたとえをするなら、

 リ〇ードンとミ〇ッキュでは、ミ〇ッキュの方が使用率ランクは上だが、だからといって、リ〇ードンがミ〇ッキュの劣化版とはならない――みたいなもの。


 戦った時、どちらが勝つかという話になれば、

 もちろん、状況次第で変動するワケで、


 そして、なにより、

 ウラスケ的には……


「……ぼくは、あんたらとは違う……あんたらと違って、頭が正常で、その上で、スペックが高い本当に高クオリティな人間なんだよ。あんたを潰して……その事実を証明してやる」


 開始の合図もなく、

 互いに距離をつめて、

 トウシとウラスケはぶつかりあう。


 ウラスケは最初から全開で、トウシから優勢を奪おうと、

 自身に打てる最善を、『眼前の世界』という『盤面』に並べ続けた。



 ――タナカウラスケは天才である。



 異質な資質を有する者が多いタナカ家の中でも、

 歴代最高クラスのスペックを有する天才。

 人類という枠から抜け出した稀代の超人。


 それは事実。

 疑いようのない事実。


 ――しかし、



「チョロチョロよけんな! 当たれよ、くそがぁ!」



 ウラスケの武は、すでに達人の領域に達しているというに、トウシには、まったく通じなかった。

 トウシは、ウラスケの全力の一手を、すべて、鼻歌交じりにヒラヒラと避ける。


 真正面からの子供扱い。

 ド直球のかわいがり。


 ニタニタとウザったい笑みを浮かべながら、トウシは言う。



「おお、流石にお前が『表層』に出てきたら、全然違うな。ええぞ、ウラスケ。強い、強い」



「どんっだけ、ぼくのこと、ナメてんだ、このクソヤロォォオオ!!」

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