いつだって、主役は遅れて現れる。

いつだって、主役は遅れて現れる。


 ヘナリと歪んだウラスケを、

 ――ネオバグは、優しく抱きしめる。



 柔らかいと感じるくらい温かかった。

 ヌルリと、軟質にすべりこむ。

 『収まる場所』を与えられると、人は弱い。


「……きっと、みんな、そういうもの……」


 『スキマに入られた』と気付ける余裕などなかった。

 ウラスケは、ネオバグの腕の中で静かに目を閉じた。


 明らかな失態――だが、どうしても、回避はできなかった。

 薄日のように、丁寧な侵略。


 だから、ついに、ウラスケは、ボソっと、


「くだらない殻を放棄して、グチャグチャに混ざり合って、ただの一つになれば……漠然とした不安は……なくなるかもな……」


 そうつぶやいてしまった。

 『認めて』しまった。

 だから、

 グヌリと、淫靡な音と共に、ウラスケは、ネオバグの中へと溶けていく。


 かくして、あっさりと、

 ウラスケの核は、

 ネオバグに奪われた。



 華麗にウラスケを奪い取ったネオバグは、


「あはっ」


 相好(そうこう)が崩れるほどの、


「あははははははっ!!」


 口が裂けるほどの笑み。

 笑壺(えつぼ)に入り止まらない。

 体を揺らし哄笑(こうしょう)。


「きた! きたきたぁああ! ウソでしょ! ここまで?! すごい! 傑出している! なに、このコアオーラ! 豊潤! 圧巻! 器の奥から、噴水みたいに沸きあがるこの厚み!!」


 ネオバグの中で、

 ウラスケが浸透していくにつれ、

 ネオバグの存在値が、どんどん膨れ上がっていく。


 想定を遥かに超えていた。

 激甚な快楽。

 煩わしい縛りが消えていくのが分かる。


 純増していく。

 空虚な魂が、ウラスケを得たことで、気炎をあげた。



「完成した……これが、本当の私……」



 愉悦に浸っていると、

 ビキリと、奇怪な音がして、

 ネオバグは神経を研ぎ澄ました。


 ザワリと胸が騒いだ。


 九時の方向。

 視線を送る。


 そこには、亀裂ができていた。

 ザクリと世界を裂いた傷。


 ――その奥から、






「また、ずいぶんとおかしなことになっとんなぁ……」






 『彼』が現れた。

 次元違いのオーラを放っているドラゴンスーツ。

 洒脱で泰然とした少年。

 どこか、ウラスケに似ていた。


 彼を見て、ネオバグはポツリと、


「……タナカトウシ……」


 認識と結合。

 あまりにもスムーズな解答を受けて、

 トウシがボソっと、


「とりこんだウラスケの記憶から情報を引っ張ってきたってとこか? なかなか器用なまねをするやないか。それとも、あのバカタレは、根っからお前と融合しとるんか? あいつは、そこまでのアホではなかったはずやけど」


「……まさか、あなたが神話狩りの『聖主』? レコードのデータから鑑みるに、あなたが『そんな地位に収まる』のは、ありえないと思うのだけれど……」


「自分でもありえへんと思うとるよ」


 そう前を置いてから、トウシは、全身に力を込めた。

 じっくりと、蒸らすように、オーラを上昇させる。

 グググと、スロースターターに存在値を上げつつ、


「最初にちゃんと言うとくけど、自分から言い出したわけやないからな。集団の頭を張っとるんも、訳の分からん党首名をつけられたんも、全部、なりゆきのイヤイヤ。現状のワシは、周囲の連中から、高度な嫌がらせ・レベルの高いイジメを受け取るだけ……そこんところ、勘違いせんように」



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