シャットアウト・ゾーン。

シャットアウト・ゾーン。


(もし、あのまま、さっきのヤツと戦っとったら……途中で、完全集中が切れて殺されとった……ほんまに引いてくれてよかった……助かった……)


 田中ウラスケには、


 ――『集中力を抑え込んでいる【通常時】は、全スペックが【同年代の最高レベル】程度にまで落ちるかわりに、完全集中状態時のスペックが跳ね上がる』――


 という『覚悟のアリア・ギアス』が積まれている。


 プラチナスペシャル『シャットアウト・ゾーン』とのシナジーで、超絶的なスペックになれるが、しかし、発揮できるスペックが凶悪すぎるのと、『現時点で捻出できるオーラ』が少なすぎるせいで、『ハイパーウラスケ状態』を長時間保つことができない。


 凶悪な力には、凶悪な制限が伴う。

 当たり前の話。

 勿論、この先の人生で、果てない訓練を経ることにより、ハイパーウラスケ状態の持続時間を延ばすことは可能。

 ただ、十数年しか生きておらず、絶望も地獄も経験していない現状では、ほんの数分しか保つことが出来ない。



「うぇ……おぇ……ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ!」



 限界近くまでハイパーウラスケ状態を維持してしまった反動で、

 ウラスケの全身は、莫大な疲労感と、極端な気血不足に襲われる。


 猛烈な頭痛と、筋肉の悲鳴。



 ――ブラックアウトしかけた、

 その時、


「し……しっかりっ……」


 アスカが、ウラスケの体をささえて、


「だいじょうぶ? どこか痛い?」


「疲れすぎた……だけ……フルマラソンした後……みたいな感じ……そんだけ……」


「ほんとに……大丈夫?」


 真っ青な顔で、ウラスケの心配をしているアスカ。

 その必死の表情を見ると、


「……は、はは……」


 ウラスケは、つい笑ってしまった。


「ど、どうしたの?」


「今、お前の頭の中は……ぼくの心配だけでいっぱいになっている……そんな気がして……だから……なんか、変に嬉しぃてなぁ……はは……キモいなぁ、ぼく」


「……」


 アスカの中で、声にならない想いが溢れてきて、

 だから、


「ちょっ……」


 アスカは、ウラスケをギュゥっと、強く、強く、抱きしめた。


 その力が、かなり強かったせいで、じゃっかん痛かったが、

 ウラスケは、痛みを訴えることはなく、そのまま、彼女の腕の中で、力を抜いた。



 ★



 ――その夜、

 ウラスケは、彼女と共に、自宅へと帰っていた。

 『また神話狩りに襲われる可能性』を考慮して、一緒にいるべきだとの考えから。


「大きな家……」


 ウラスケの自宅は、趣のある豪邸で、

 ほんのり『反社』系の香りがする屋敷だった。


「これ、ヒイジイさんの別荘なんや。ウチのヒイジイさんは、なんか、戦争の時、裏で色々やってて、めっちゃ金持っとったとか何とか聞いているけど、詳しくは知らん」



 ウラスケの曾祖父『田中裏吉(うらよし)』は、田中家の中でも異端だった。

 田中家の血筋は、極端な孤高主義者で、基本的には、他者との関わりを拒絶する傾向にある(恋愛に対してだけは特別で、深い関係を結んだパートナーとだけは蜜になる傾向にある)。


 だが、裏吉は、タナカ家の人間にしては珍しく、

 『個』ではなく、『国』を重んじた。

 『大勢の命』を守る為、自らを『闇』にさらした、タナカ家の突然変異。



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