史上最高の弟子にして、偉大なる聖主のバディ――虹宮憲治。

史上最高の弟子にして、偉大なる聖主のバディ――虹宮憲治。




「なんで……そこまでしてくれるの? どうして……私を助けてくれるの……」

「……」





 濡れた言葉を投げかけられて、ウラスケは言葉を詰まらせた。

 この質問に対して、ウラスケはまだ、整った回答を有していない。


 ふいに、そこで、ウラスケは、

 学校での『アスカの様子』を思い出す。


 『独り』を好む性質に関しては、家系の問題で理解できていた。

 認めたくはないが、自分にも、そういう性質が含まれているから、理解するのは難しくなかったのだ。

 ウラスケは、孤高主義という性質を、そこそこ正確に解(かい)している。

 というか、ぶっちゃけ、認めていないだけで、

 実際のところ、ウラスケは、孤高主義を熟知している。

 若干異端ではあるものの、ウラスケも、間違いなくタナカ家の人間だから。



 だからこそ、繭村アスカは『そっちの人間ではない』と理解できた。

 違うのだ。根本的に。

 性質のベクトルが、孤高主義とは絶対的に乖離している。

 彼女は決して、そっち側じゃない。


 ウラスケは、その結論に至ると同時に、

 彼女が『ひどく苦しんでいる』と理解できた。


 他者とのかかわりを避けながら、心を閉ざしながら、

 痛みを抱えながら、必死に、全身全霊で、

 彼女は、無言のまま『救い』を求めていた。


 言葉にせずとも、

 明確に、態度で示さずとも、

 彼女は、ずっと、

 『助けてくれ』と叫んでいたんだ。


 それが、ウラスケには分かった。

 わかってしまった。


 だから――


「ぼくは……」


 とっちらかった思考を整理しながら、

 答えを口にしようとした――



 ――と、その時、



 ギギギっと、耳障りな音がして、

 また、次元に亀裂ができた。


 ウラスケは、即座に頭を切り替えて、

 次元の亀裂を睨みつけた。

 この『絶妙なタイミング』で来てくれたコトに、どこかでホっとしている自分がいる事に、ウラスケは内心で気付いていたが、見てみぬふりをした。

 彼はまだ、自分の不可解な情動に対する明確な解答を得ていない。


 ――次元の亀裂は、五秒ほどで『人が通れるサイズ』なり、

 そして、その奥から、




「……最終確認にきた」




 神話狩りのナンバーツーにして、偉大なる聖主のバディ『虹宮憲治』が出現して、

 ウラスケを睨みつけながら、そう言った。

 挨拶もクソもなかった。

 極めてシンプルで、直観的で、瀟洒でスマート。


 スキがなく、腰がすわっていて、筋と芯が通っている。

 ウラスケは、虹宮という男に対して、そんな印象を抱いた。



「迷わずにエースを投入してきたか。対処がアホほど迅速……どうやら、かなり優秀な組織らしい」



 ウラスケは、そう言いながら、アスカを守る壁を完璧に遂行しつつ、

 侮りえない難敵――虹宮憲治を睨みつける。


 虹宮に対して、ウラスケは、初手から『対話を拒絶している空気』を出す。

 その態度は、まさしく威嚇だった。

 相手に対してだけではなく、自分に対しても気合をぶちこむ魂の構え。


 その手の拒絶的態度に、特別鈍感ではない虹宮は、

 無意味な確認や前置きは抜きにして、サクっと本題に切り込む。


「その態度を見る限り、どうやら聞くまでもなさそうだけれど……まあ、一応、聞いておこうか。……どうしても、我々と敵対するか?」



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