慟哭。

慟哭。


「主上様の強さを前にすれば、私などゴミ以下。何をしようと、どうしようと、かすりキズ一つつけるコトすら出来ない。それが私の神だ。全てを超越した神の王。ありとあらゆる全ての頂点に立つ、この上なく尊い命の王」


「……」


「その事実と、身に起こっている現実を踏まえた上で……さあ、もう一度、ほざけるものなら、ほざいてみせろ。貴様は、誰を討つつもりなんだ?」


「……」


「ちなみに言っておこうか。私と貴様の闘いが始まる前に、主上様は私にこう仰った。タナカトウシ以外、全員、殺していいと」


「……」


「私は、主の命に従い、貴様以外の全てを殺す。正確に言おう。今から十秒後に、あの女を殺す。アカツキジュリア。貴様とただならぬ関係にあるあの女を殺す。貴様の目の前で、頭蓋骨と脳味噌を砕いて殺す」



「ジュリアには……触るな……殺すぞぉ……」



「まだ吠える事はできるようだな。しかし、それだけか? 私を倒さなければ、あの女は死ぬぞ? 残りは5秒。もし、立ち上がって、まだ私に挑むという意志を示すのであれば、残り時間は延長してやる」


 その言葉を受けて、トウシは、


「……ぐぅ……うぅ……」


 フラつきながら、

 よろけながら、

 どうにかその場で立ち上がった。


 拳を握り、

 かすむ目を見開いて、


「延長時間は……どのくらい……?」


 かすれた声で尋ねる。

 アダムの言葉が嘘かどうかと考える余裕すらない。

 ただ必死に立っているだけ。


 涙にぬれた声。

 痛々しい、弱者の悲鳴。


 その姿を見たアダムは、


「……強いな……」


 ボソっと、そう言ってから、


「貴様は強い。ヒーロー足りうる器。……しかし、何も守れない。力を持たないから。心がいくら強かろうと、実力がなければ、何も守れない。それがこの世界の真理だ」


「……」


「延長時間は倍の10秒。すでに経過した。というわけで、今からあの女を殺す」


「っ……やめ――」


「貴様の言葉は、もう、私には届かない。己の弱さを恨め」


 そう言って、アダムは、トウシに背を向けて、ジュリアの方へと歩いていく。


 その背中を見つめているトウシ。

 『アダムが、ジュリアを殺そうとしている』という事実を再認識すると、

 トウシの足に力がこもった。


 本当なら、もうとっくの昔に動けなくなっているはずなのに、

 足が重たくて、視界が歪んでいて、

 全身に激痛が走っていて、

 立っているのもやっとの状態なのに、


 ――それでも、


「お前の! 相手は! ワシやああああああ!!」


 飛びだした。

 オーラを爆発させて、それを推進力にして、

 何の計算もない突撃!


 全てを賭した一撃も、


「ただ喚(わめ)いて暴れるだけでは何も成せない」


 優雅に流されるだけで終わった。

 フワリと、緩やかに、

 ダメージすら負わせてもらえずに、

 ただ、流された。


 つまりは、結局のところ、傷一つつけられなかったというお話。


 ――アダムは強すぎる。


「こ、こんなの……」


 ついに、我慢できなくなったようで、

 トウシが、


「こんなのおかしいだろぉおおおお!」


 天を仰いで叫ぶ。


「俺は間違いなく天才だ! ガチャは裏技で鬼引きしまくった! なにより、俺は、究極超神ソンキーの手ほどきをうけたんだぞ! あれだけ強い神様から武を学んだんだ! 才能があって、裏技も使って、神の贔屓も受けたのに!! なのに、なんで! なんで、こんな! こんなのゲームとして成立してねぇ! 不条理なんてもんじゃねぇ!」



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