心の折れる音。

心の折れる音。


「帰るんだよぉおお! 俺は絶対に、家に帰る!! こんなところで死んでたまるかあああああ!」


 血走った目で叫ぶ伊達。

 そんな伊達の目をジっと見つめながら、岡葉が、ボソっと、


「同感だ。痛いほど、君の気持がわかる。俺もまったく同じことを思っている。絶対に生きてここから帰る。こんなところで死んでたまるかって」


「俺は絶対に、日本に帰って、政治家になるんだ!! そして、好き勝手やっている反日パヨク連中を一掃して、日本を守るんだ! こんな、ワケわかんないところで死んでるほど、俺はヒマじゃねぇんだぁあ!!」


 極右な伊達の言葉を受けて、

 決して左寄りではない岡葉は、


「ご立派な夢だ。ぜひ応援したいところ……」


 そうつぶやいてから、


「だが、君の願いはかなわない……君はもう死んでいるから」


「ふざけた事言ってんじゃねぇ! ケンシロウ気取りかぁあ!」


「いや、そういう意味じゃ――おっと」


「避けんじゃねぇええ! 死ねよぉお! 頼むからぁあああ!」


 その言葉を聞いた虹宮が、


「頼むから……か」


 ボソっとそう言ってから、


「なら、おれも頼もうか。――頼むから、終わってくれ」


 モード・アルクスをつかい、機動力を底上げする。


 宣言によって変形していくドラゴンスーツ。

 よりシャープでエッジのきいたフォルムとなり、

 極彩色に発光している後輪を背負う。


「身勝手に、ワガママに、おれは、君を終わらせる……悪いな」


 ギュンと加速して、虹宮は、伊達の顔面に拳を叩きつけた。


「ぐがっ――」


 『よろけたスキ』を見逃す甘さなど持ち合わせていない。

 虹宮は、一切の情けを排除して、最短・最善の一手のみを放ち続ける。


 伊達は間違いなく武の天才だが、

 対峙した相手が悪すぎた。


 伊達では虹宮にはかなわない。


「――っ……くそ……ちくしょぉ――」


 あっさりと、伊達は堕ちた。

 ボコボコにされて、最後は丸のみ。

 あっけない最後だった。


 そんな伊達の最後を目のあたりにして、

 三万の中学生たちの心が折れた。


 伊達という戦力が光だった。

 彼・彼女たちにとって、伊達は、まさに、虹宮たちにとってのタナカトウシ、ゼノリカにとってのセンエースのようなもの。

 もっとも優れていて、もっとも強かった者。

 土壇場における強さも、屈しない心も、

 すべてが、主軸であり希望だった。


 だから、折れた。

 伊達が死んだことで、

 ボキっとヘシ折れる音が世界に響きわたった。


 敵の戦線は完全に崩壊した。

 神話狩りの勢いは増すばかり。

 ――三万もいるので、当然、中には、多少の勇気を見せる者もいたが、




「……ダメだ……あいつら……強すぎる……」

「勝てるわけがない……」




 神話狩りの圧倒的なスペックを前にして、最後まで勇気を叫んでいられるヒーローなどいなかった。

 ただただ、無慈悲に飲み込まれていく三万の中学生達。


 ――と、その時、


「詰みだな。もはや意味はない」


 彼らの上空に、

 ミシャンド/ラが出現し、


「しかし、まったく……それだけ強化されておきながら、多少の抵抗すら出来ないとは……本当に使えないクズどもだ」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る