主人公補正値を競い合う戦い。

主人公補正値を競い合う戦い。


 虹宮は闘った。

 膨れ上がるオーラに振り回されながら、

 自分の中で異様なほど燃え盛っている過剰な勇気と共に、


 闘って、闘って、しかし、




「ぐふっ!!」




 重たい一撃を入れられて、体がくの字に曲がる。

 10体のネオバグを一人で相手取るのは、やはり無理があった。


 虹宮は、『今の自分に出来る全て』を賭して抗ったが、

 やはり、10対1という数的不利はどうしようもなかった。

 多少の抵抗ができただけでも奇跡と呼べるレベルだった。


「まだだ……おれは……まだ――」


 ボコボコにされて、

 しかし、それでも立ち上がる虹宮を見て、

 ネオバグは、あらためて驚異を感じながらも、

 だからこそ、けっして油断せずに、ギラリとした視線を向けて、


「ああ! まだ闘えるだろう! ソコを疑ってなどいない!」


 全身を包み込む魔力とオーラをヒリつかせたまま、

 微塵の慢心もなく、

 強く澄んだ目で虹宮をにらみつけ、


「貴様は最後まで抗い続けるだろう! その『ラリったような勇気』という牙を、最後の最後まで剥き続けるだろう! ――そして、死ぬ! 闘い続け、まだ強くなり続け、最後の最後まで抗い、そして死ぬ! それで終わりだ!」


「終わらねぇええ! おれは! おれはぁああああ!!」


 ネオバグの計算通りに激化していく闘い。

 適切に削られていく虹宮。

 ネオバグは、まだまだ余裕をもって、虹宮に削りを入れていく。


 特殊モードを展開しているネオバグの脅威は、

 『出力が高い』という点だけではなかった。


 勝利をたぐりよせる強さ。

 あるいは、主人公補正と呼ばれるチート。

 そのパーセンテージが、より高いほうが勝つ――そんな、奇妙な戦い。


 その戦いを、ネオバグは完全に支配していた。

 虹宮のチート(史上最高の弟子ケンジ)はすさまじいが、

 ネオバグのチート(モード死夜の勇者)もハンパじゃない。



「ぐふっ……ぉえ……くっ……」



 ――次第に終わりが見えてきた。

 虹宮が圧殺されるのが、間違いなく時間の問題になった。


 そんな虹宮とネオバグの戦いを、遠くで眺めている神話狩りのメンバー。

 今の彼・彼女たちでは、実力が足りなさ過ぎて、虹宮の勝利を祈る事しかできない。

 加勢する事はもちろん、サポートすることすらできない明確な差。


「くそ……ボクは、自分の弱さが憎い! いつまでたっても、誰かの背中に隠れている事しかできない自分が許せない!!」


 岡葉が叫ぶ。

 『その声』に『感情』を重ねた者は多かった。

 多いというより、ここにいる全員。

 誰もが思う。

 いつまで、自分たちは、蚊帳の外にい続けるのか――


「ボクは! いつまで足手まといを続けるんだ! いつまで『戦力外A』で在り続ける! ああ、なさけないぃいいいいい!」


 岡葉の叫びに対し、味崎が、


「まだ『A』なだけマシだろ。俺なんか、『戦力外G』くらいだぞ」


 自虐を口にする。

 無意味な時間。

 『自分を傷つける事でしか、自分を慰められない』という、

 そんな非生産的すぎる命の浪費。


 味崎の無意味な自虐はシカトして、

 岡葉は頭をかきむしり、


「……くそ、くそ、くそぉお! このデスゲームに参加してからというもの、『こんな屈辱は産まれて初めてだ』ってレベルの辛酸ばかりをナメ続けている! もうイヤだ! こんなのはボクじゃない!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る