本当の勝負。

本当の勝負。


 言いながら、虹宮はバットを持って打席にたつ。

 そんな虹宮に、トウシは重ねて言う。


「もう一度、ちゃんと言っておく。これは、勝ちと負けがハッキリと決まる、一打席勝負や」


「はいはい、わかったよ。そんな、何度も言わなくていい」


 言いながら、バットを構える虹宮。


 トウシは、


「一球目」


 そうつぶやいて、大きく振りかぶった。


 グンと足をあげて、ダンと踏み込む。


 放たれたボールは、白い線となって、虹宮の目の前を横切っていった。


「ははは。綺麗なストレートだね、トウシくん。これは、ちょっと打てそうにないや」


「二球目」


 言いながら、トウシは、ふりかぶる。

 二球目もストレート。

 虹宮の前をアッサリと通過する。


「これで、ツーストライクだね。さあ、はやく三球目を投げて終わらせてよ」


「最後にもう一度言う。これは真剣勝負――」


「もういいって、流石にくどい」


「ワシとあんたの間で、正式に、『勝ち』と『負け』が決まる勝負」


「わかったって、しつこいなぁ」


「これから、あんたは、ワシに負ける」




「……」




 トウシは、もう言葉は使わなかった。


 これまでの『どの投球時』よりも、トウシは大きく振りかぶる。

 そして、躍動する。


 インハイに向かって投げ込まれたライズボール。

 仕留めにかかった一球。


 それを――






 キィィィィイイイン!!






 と、華麗にはじき返した虹宮。


 打球は、大きく放物線を描く。

 が、位置的には、ポールの向こう側。

 特大のファール。


 それを受けて、

 トウシは、

 冷たい汗を隠しながら、


「けた違いに鋭いスイング。さすがやな、神様」


 そこで、虹宮は、パチンと指をならした。

 すると、通夜のように静まり返っていた『三万の観客』と『相手ベンチの選手』がスゥっと、その場から姿を消した。

 よく見ると、一人だけ残っていて、それは、相手チームの捕手だった。


 虹宮は、その相手チームの捕手に、


「この勝負中、トウシの球を受けろ。そうすれば、解放してやる」


「え、ほ、ほんとに?!」


 パァっと目を輝かせてから、少しだけ穿った目をして、


「ぅ、うそじゃないだろうな!」


「次、余計な質問をしたら、他のやつに権利をまわす」


「っ……は、はい、すいません、もう何も言いません!」


 その捕手は慌てて、ポジションについてミットを構えた。

 続けて、虹宮は、


「……アダム、審判をしろ。贔屓は絶対にするな。これは正式な命令だ」


 そう宣言すると、

 虹宮のすぐ隣に『片膝をついているアダム』が出現し、


「おおせのままに」


 恭しく返事をしてから、優雅に立ちあがり、

 捕手の後ろにまわって、主審の位置についた。



 準備が整うと、虹宮は、ゆっくりと首をまわして、


「さて……中断して悪かったな。それじゃあ、『勝負』の続きを始めようか。お前と俺の間に勝ちと負けがハッキリとつく……そういう『真剣勝負』を」


 ゆったりと体を動かしながら、


「もし、俺に勝てたら、課題はオールクリアって事にしてやるよ。ただし、お前が負けたら、神話狩りのメンバーを50人ほど殺す」


「……」


「パワープレイの神狼吊りがノーリスクで決まると思ったか? ありえない。俺のゲームは甘くない。それに、これは、お前からはじめた勝負。まさか、文句は言わないよな?」


「なんで50人……全滅やない理由は?」



「お前じゃ、俺には絶対に勝てないから」

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