数学のテスト。

数学のテスト。


 ある程度の情報を集め終えると、トウシたちは、講堂に向かって、テスト開始の時間がくるのを待った。

 アダムが宣言した通り、キッチリ一時間後、

 壇上にアダムが現れて、


「それでは、これより、数学のテストを始める」


 アダムがパチンと指を鳴らすと、席についているトウシたちの目の前に大量の紙束と、シャーペンと消しゴムが出現した。


「その量で足りないという事はないと思うが、おかわりが必要な時は左手をあげろ。あと、表紙に注意事項を書いてあるから、各自、きちんと読み込むように。その時間を一分あたえる。ちなみに、質問はうけつけない」


 などといった注意を受けたトウシは、『何か特別な嫌がらせ的な事』でも記されていないだろうかと、注意深く読んでいくが、


(……オーラドール・アバターラの使用OKって……なんや、これ……なんのこっちゃ……)


 わけのわからない文章もまぎれてはいたが、それ以外は普通の注意事項だった。

 一分という時間はすぐに過ぎて、



「……それでは、はじめ」



 開始の合図の直後、

 トウシは、ガガガガガガと、一秒も考えずに、問題を解いていく。

 どの問題も、ほぼほぼ完全な反射で解いていくトウシ。


 数学が得意と公言していた雷堂も、序盤の問題レベルが低い時は、同じように反射レベルで答えを出していたが、難易度がグっと上がってくる中盤以降は、流石に考える時間の方が増えてきて、ペンが止まった。


 この数学テストは難易度が非常に高く、大半の者の手が途中で止まる。

 が、そんな中でも、トウシの手だけは止まらない。

 講堂中に、ガガガガガガっという、もはや逆にアホみたいな音が響き渡る。


 ついには手をあげて、


「おかわり」


 と、追加を要求する始末。


 そのあまりの凄まじさに、全員、呆けて、

 つい『一心不乱に問題を解いているトウシ』の姿を見つめてしまった。


(ぇ、あれ……本当に解いているの?)

(なんだ、あのスピード……なんで、こんなダルい問題の山を、そんな速度で解けんの?)

(ほんとに、あの人、どんな頭してんだよ……)


 ちなみに、トウシは、これまでに受けてきたテストで本気を出した事がめったにない。

 めったにない……というか、実際のところは、『本気を出すに値する』と思ったテストは、ここまでの人生だと一度きり。

 それは、『塾』で行われた定期テスト。

 今やっているのと同じような、バカ○ス方式の、上限なしテストで順位を競い合うシステムを採用している、頭おかしい塾。


 その塾には、英語と国語のテストで異常な点数を取る同級生がいた。

 『閃壱番(せんえーす)』という、妙なキラキラネームで、トウシに負けず劣らない陰キャボッチで、かつ、根性がハンパじゃなかった男子中学生。


(下手したら負けるかもしれんと思って本気だしたら……やりすぎて、あいつ、塾をやめてもうたんよなぁ……ワシに『全教科で負けた』って結果を見た時のあいつの顔、ヤバかったからなぁ……あいつ、なんていうか、あの塾で一位を取るんがアイデンティティみたいなとこあったから。いや、一位を取ること云々やなく、それまでに積んできた努力を、ワシに否定された気分になったんがショックやった、って感じか。まあ、あいつは、絶望しても仕方ないぐらいの努力を積んでたから……っと、あかん、あかん、余計な事考えとる余裕はない……まだ、2000点くらいしか取れてへん……)


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