ジェノサイドタイム。

ジェノサイドタイム。


 膨大な計算の底に沈むトウシ。

 そんなトウシを睨みつけたまま、

 ジャミは、


(……ためすか)


 心の中でつぶやいてから、

 トウシとの距離を詰めた。


 互いの拳が届く距離に入ると、ジャミは、三回、フェイントを入れた。

 覇気と視線と肉体の響きを巧みにコントロールして、

 相手に、『間違いなく殴られる』という『認識』を『強制』させるフェイトを三回。


 だが、トウシはまったく反応しなかった。

 ピクリともせずに、


「フェイントに集中しすぎて、足下の警戒が緩慢になっとるで」


 ローを入れながら、ノンキな口調でそう言うトウシ。

 ビリィっと足が痺れた。

 大ダメージではない。

 ほんのわずかな痺れ。

 しかし、


「ちっ」


 ジャミは、またもや地面を蹴って距離を取る。

 蹴られ左足が、直後に、一瞬だけズキっと響いた。


「なるほど……どうやら、本当に、未来が視えているようだな」


「それは、ちょっとニュアンスが違うなぁ。所詮は、『この条件』やったら『ほぼ確実に、こうなるやろう』という推測でしかない。せやから、当然、外れる事もある。ただ、ワシが計算ミスする可能性は限りなくゼロに近いだけ」


「……驚嘆に値する」


「そらどうも」


「しかし、それならば……こうなると、どうする?」


 そう言って、ジャミは、




「ジェノサイドタイム」




 ボソっとそう呟いた。

 その瞬間、ジャミの体がメキメキと音をたてて膨らんでいく。

 全てのスペック・耐性が劇的に上昇し、

 火力も爆発的に上昇する、ジャミの切札。



 先ほどまでのさわやかなイケメン感が消えて、ずいぶんと気性が激しそうなイケメンになった。



「さあ、ここからは、お行儀よく闘ってはやらねぇぞ。可能性を掌握しようがどうしようが、貴様程度じゃ届かない世界があるという事を教えてやる」



 そう言って、ジェノサイド・ジャミは、トウシに向かって、思考のない突撃をかました。

 ただ、その、驚異的なパワーとスピードを暴走させたロケット。


「ぐげぇ!!」


 トウシは、そんなJジャミの行動を予測していた。

 計算できていた。

 しかし、反応が出来なかった。


 吹っ飛ばされたトウシ。

 スタジアムを囲む壁に激突し、盛大に吐血する。


「……いったぁ……」


 普通なら完全に死んでいる衝撃だったが、ドラゴンスーツの半端ない衝撃吸収作用と自己回復機能のおかげで、気絶する事すらなかった。


「分かっていても、見えなきゃ意味ねぇだろ」


 そう言って、Jジャミは、トウシの首を掴み、


「ひねり殺されると分かっていても、抗える力がなければ無意味」


 グググっと力を込めていく、


「う、ぐぐぐ……ぐぃい……」


「お前の脳細胞はハンパじゃなく素晴らしいが、そんなものは、少し頸動脈を抑えつけるだけでも、虚血でアッサリと死ぬ程度の、非常に脆い輝きでしかない。賢さは尊いが、暴力には抗えない。すなわち、暴力こそ最強の力。貴様は間違いなく優れているが、しかし、最強ではない。だから死ぬ。貴様ほど賢い者でなくとも分かる道理……というより、どんなバカでも分かる単純な理屈」


「ぐぎぃい――」


 落ちそうになったところで、

 Jジャミは、トウシの首から手を離した。



「がはっ! はっ! ぶはぁあ!」



 必死に空気を吸いこんでいくトウシ。

 全身の血流が加速する。


 ただ息を吸って吐くだけの単純な生物になったトウシを見下しながら、Jジャミは言う。



「あえて、ムリヤリに例えるなら、貴様がやっているのは、『歩行』の際に、『まず右足をあげて、それを前に出して、それが地面についてから、今度は左足をあげて~』といったような複雑な処理を行っているようなもの。その作業を、いくら、高速で処理できたとしても、無心で走っている者には敵わない」


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