ボーダーブレイク!!

ボーダーブレイク!!



 100連を引いても、勝てるかどうかは分からない。

 だが、事ここに至っては、もはや逃走ルートを探す気は微塵もなかった。


 100連ガチャを選択して、

 トウシは叫ぶ。



「ヒーロー見参!」



 結果は、もちろん――




 ★




「10連だけじゃなく……100連まで……全部が☆X……だと……?」


 トウシの結果を目の当たりにしたセンは瞠目した。

 よくみると、小刻みに体が震えていた。


「今、施行されているガチャに、そんな仕様はない……どういう……なんで、こんな……」


 センは、即座に、トウシの生体データを解析してみた。


「……幸運系の特殊スキルは所持してねぇ……となると、コレは……」


 ギリっと奥歯をかみしめて、


「確実に……100%、誰かが……『何か』をしていやがるってことだ……『何か』っつぅか……トウシへの肩入れ……そして、トリガーは、間違いなく『ヒーロー見参』というコール……か、完全に俺をおちょくっていやがる……『トウシへの肩入れを経由する』という、俺に対する高度で精緻な嫌がらせ……」


 そこで、センは、チラっと、自分の後方にいるシューリに視線を向けてみた。


(シューリ級の運命操作……いや、このゲームは既に俺の支配下にあるから、シューリのチートスキルは発動しない)


 シューリのチートスキル――確定で激運に包まれる『双覇・天星戯画システム』は、シューリより強者に対しては使えない。


(……それを踏まえて考えると……この『見えない敵』は、俺以上って事に……)


 まだ確定ではない。

 この推定は、あくまでも、シューリのチートを念頭においた場合の話でしかない。


 あるいは、強さどうこう関係なく、単純な、

 『センエースにも抗える幸運スキル』という可能性もある。


(ふん……まあ、どっちでもいいけどな。最悪、この『見えない敵』が俺以上の力を持っていたとしても……俺は、ただ、それを超えるだけだから……)


 これまでもずっとそうだった。


(俺より強い程度のザコに……俺は負けない)


 センは、『自分よりも圧倒的に強い敵』と闘い続けて、そして、勝ち続けてきた。

 そうやって、彼は神の王になった。


 ――だから、


「受けてたってやるよ。全部、超えてやる」


 心を燃やして、ただ、そうつぶやいた。






 ★


 裏技は問題なく発動した。


 だから、トウシは手に入れた。

 『☆X』の強化パーツ×100!!

 表示されたリストの量は膨大。

 ※ ちなみに、マスター同士での強化アイテムの交換はできません。



 その全てを一目かつ一瞬で把握したトウシは、

 さらに、



(これが、現状の最適解……)



 100個ある強化パーツのコンビネーションパターンは膨大。

 単純に『強い強化パーツから順当に当てはめていく』のではなく、『100個の優秀なアイテムの中から、最適解を導き出す』という作業は、凡人ならば相当の時間を要する(ていうか、その時間が一番楽しい。そこで時間が潰せないならソシャゲなんかやる意味ないってレベル)。


 『基本ステの向上』や『キャラパーツ・称号・スキル・技』の組み合わせはもちろん、

 コンボやセットボーナスなどを含めた複雑極まりないパズル。


 さらに、携帯ドラゴンの強化アイテムは、ハクスラ式であり、

 同じランク・名称のアイテムであっても、性能がだいぶ違う。


 そのため、組み合わせは本当に無限。


 本来、思考錯誤を繰り返し、

 数週間、あるいは数カ月を費やすことで、

 ようやく『答えらしきもの』に近づいていくもの。


 それが、『携帯ドラゴン』というゲームの難解な点であり、最大の醍醐味でもある部分。


 だが、トウシは悩まない。

 その異常極まりない演算速度で、即座に、最適解を導き出す。



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 登録名 『エルメス』

 型番  『IS=GPQC/タイプD95775‐GX9』


 《強化値》    【1901%】

 《容量》     【152000】


 [HP]     【2700%】

 [MP]     【3200%】


 「攻撃力」    【12000%】

 「魔法攻撃力」  【3500%】

 「防御力」    【2500%】

 「魔法防御力」  【1500%】

 「敏捷性」    【7000%】

 「耐性値」    【3700%】



 所有スキル、超多数。


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「ほな、行こか。……トランスフォーム!」




 ドラゴンスーツに身を包んだトウシは、


「おお! 軽い! 重力から解放された気分! まるで羽が生えたみたいや」


 グっと下半身に力を込めて、


「さらにぃ! フルチャージ(時間制限ありの全能力強化技)!」


 バフを積み、

 そのまま、


「うらぁあ!」


 バロの頭部めがけて、脳筋のように殴りかかった。


「きゅっ!」


 トウシの一撃を受けて、ギニっと顔を歪ますバロ。

 トウシは休まずに、何度も、何度も、バロに向けて両の拳をブチ込んでいく。


「ワシ、すげぇ! 超つよいぃ! ははは!」


 強化された自分に酔いながら、


「どうや! どうや! どうやぁああ! これが、ワシの必殺『アホの一つ覚えナックル』や! 賢さを売りにしとるとは到底思われへん『イカれた脳筋ぶり』やろ!」


「きゅ……きゅいっ……」


 どんどん押しこまれていくバロ。


「ふはは! 勝利が見える! というか、もはや、勝ち筋しか見えん! 敗北が知りたい!」


 などと叫んでいるトウシ。


 その姿を見たバロールが、


「……トランスフォーム」


 と、つぶやき、

 一瞬でバロを身に纏う。


 携帯ドラゴンを使う前から、強者のオーラを出していたバロールが、

 さらに、とんでもない覇気を纏い、ギンッッと、トウシを睨みつけ、



「さて……それじゃあ、本番といこうか。確か、敗北が知りたいんだったか?」



「あ、いえ……もちろん、冗談です……」


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