センエースに勝つという事。

センエースに勝つという事。


 センには、その長い人生の、特に後半(カンスト以降)で、『何か没頭できるものを見つけよう』と、『いろいろあがいた時期』があった。

 その際に、たとえば、料理とか絵画とか楽器とか、色々と多角的に頑張った事がある。

 だから、その辺の事も、一応、プロ級にはできる(だいたい、どれにも50~200年くらいはかけているため、そこそこはできる。どれだけギターが下手なオンチでも、200年、毎日やってりゃ余裕で達人になれる。1万時間の法則あらため、200年の法則)。


 センの教養の広さと深さは、そこそこハンパない。

 『バカみたいに努力ができる下地』があるため、

 時間さえあれば、だいたいの事は出来るようになる。

 鬼才・天才的な事はできないが、どの分野でも『時間をかければ辿りつける領域の最果て』には辿り着いている。

 ※ センは、『無能』だが、それは『最初からうまくできるコトは何もない』という意味でしかなく、『どれだけ頑張っても上達しない』という意味ではない。

 あくまでも、初期状態はゼロというだけ。

 積んだ分だけ上達する。



 長き神生の中で、多大な時間をかけて、多くの技能を修めたセン。

 そのセンが『身に付けた教養』の中でも、

 そこそこ上位に入る将棋で、

 ――勇者は勝った。


 シューリのノリのせいで、ギャグテイストが漂ってしまっているものの、

 しかし、センは、『この事実』を重く受け止める。


(勇者ハルス・レイアード・セファイルメトス……思ったよりもはるかにイカれた存在のようだな……少しだけ、あいつに興味が出てきた……)




 ★




 15万MDPの賞金を獲得したハルス。

 だが、その顔色は優れなかった。


「優勝したってのに、なにを、そんなに落ち込んでいるんだ、ハルスさんよ」


 ゼンに、そう言われたハルスは、渋い顔のまま、


「俺とあの177番((セン))の勝負、お前も、後ろで見ていたよな?」


「ああ」


「どう思った?」


「どうって言われてもなぁ……なんか、まだまだ全然途中だったけど、相手が時間かけすぎてタイムアップになりました……ぐらいにしか……」


「……」


「あ、そうだ。聞こうと思っていたんだけど、177番との会話でお前が出した答え、あれ、なんだったんだ?」




『……俺は、お前がつくった問題を……詰将棋ってヤツを解かされただけだ』




「もしかして、意味を間違えて使ったのか? だったら、ちゃんと教えておくけど、詰将棋ってのは、勝負の最中にやる事じゃないぞ。こう、本とかに書いてあってだなぁ」


「うるせぇ、頭カニ味噌はだまってろ」


「……ひどぅい……」


 ゼンをシカトして、

 ハルスは、頭の中で、


(存在値は微妙だったが、あの圧力は本物だった……177番……あいつは、ただのザコじゃない……あの微妙なオーラ・魔力量だと『タイマンの戦闘能力』は低いだろうが、指揮系の能力は、おそらく大天才クラス……仮に、あいつが、『質はともかく人の数だけは多いトーン共和国』で出世したら、トーンの戦力は、相当なモノになるだろうな……)


 未来を思考する。

 ハルスは、常に、孤高。

 味方は一人もいない――が、敵は山ほどいる。

 つまり、世界全てが敵にまわる可能性だってある。

 その『可能性』があるなら、『対処する方法』も一緒に考えるのが自然な流れ。


(あの177番に統制されたトーンの軍隊……『見てみたい』とすら思うほどの強力な軍になるだろう。あいつの力が……もし、『盤面上限定の局所的な才能』ではなく、実際の戦場でも使える本物なら、カスみたいなセファイルの軍でもかなりのモノになるかもしれない……)


 177番に対する評価を頭の中で下しながら、


(この二次試験では、魔力やオーラの量よりも、『頭の使い方』や『適応能力の高さ』がモノをいう……先に潰しておきたいところだが、『どうせ、いずれは出世するであろうあいつ』を敵に回すのも得策とはいえない……)


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