初イベント!

初イベント!


「みんなで一つのことに向かって頑張っているなぁって感じられて、だから――」

「ああ、もういい。長い」


 面倒臭そうにセイラの言葉をぶったぎったハルス。


 セイラは、「むー」っと頬を膨らませるが、そこまで気分を悪くしているワケではなさそうだった。

 二人の関係性は、ある程度かたまってきていて、

 なんだか、熟年夫婦のようになっていた。


 この『クソしょうもない関係性』に対して、

 実はというと、ハルスは、そこまで不快感を覚えてはいなかった。

 ハルス視点で言うと、セイラというガキは、文句なしの全力で鬱陶しい。

 ただ、セイラという女は、空気が読める子なので、ハルスが本気で嫌がる事はしない。


 『最善のバランス』とは言えないが、二人の関係は、

 常に『決して悪いとはいえないバランス』を保っていた。



 ――そこで、MDデバイスがブルっと震えた。


 何事かと、中身をチェックしてみると、

 ハルスがボソっと、


「……どうやら、こいつには『イベントの情報』なんかも入ってくるみたいだな……便利なマジックアイテムだぜ」


 お知らせがきていた。

 1時間後に、『将棋大会』が開かれるという告知だった。


 それを見たゼンは、


「この感じでいくと、次はジャンケン大会かと思ったけど、将棋か……つぅか、携帯ドラゴンで将棋のイベントなんてなかったけどなぁ」


 すると、そこで、ハルスが、


「おい、ショーギってなんだ? お前、知っているのか?」


「……ああ、そっか。だよなぁ……んー、もしかして、これは、そっちの流れなのかな?」


「どういう意味だ?」


「ルールを知らないゲームで推理力・対応力・考察力をはかるパターン。……ある意味で、ニギリズシ系かな。となると、今の俺の立場はハンゾーか……」


「……スラングを多用するんじゃねぇ、うぜぇ。ちゃんと説明しろ」


「この世界の人間が全員ゼロスタートだとすると、俺が出た方がいいか……それとも、ハルスにルールを教えた方がいいか……まあ、両方でいいか。参加人数に制限はないらしいし」


 ゼンは、ボソっとそうつぶやいてから、


「とりあえず、将棋ってのは、こう……駒をだな……歩が――王が――」


 ゼン、説明中……


 二分ほど、将棋についてのルール解説を受けたハルスは、


「……なるほど。シンプルで浅そうに見えて実は底深いテーブルゲームか」


 脳を高速回転させながら、


「戦術にはどんなものがある?」


「棒銀とか、穴熊とか――」


 説明中……


 5分ほど、ザックリとした戦術解説を受けると、

 ハルスは深くうなずいて、



「……なるほど。だいたい理解した。このゲームには、敗因はありそうだが、勝因はなさそうだな。どこまでいっても、相手のミスを待つしかない。……そういう忍耐ゲーム。そうだろう?」




「ぇ……いや、しらんけど、俺、そんなに将棋は詳しくないから」


「このゲームで強くなるには、どうするのがベストか……効率のいい鍛練法とかあるか?」


「一番てっとりばやいのは、やっぱり、詰め将棋かなぁ……もちろん、それだけで強くなれるってワケじゃないけど、結局、相手の王を詰むか、自分の王が詰まされるかってゲームだから、そこの『出来』と『知識』は大事なような気が――」


 そこからも、ゼンは、ハルスに、将棋に関する情報を流した。


 すると、15分もしないうちに、


「完全に理解した。仮に、今回のイベント参加者の中にルールを知っているヤツが混ざっていたとしても楽勝だな」


 ニっと笑ってそう言った。

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