ハンパじゃないセーブデータ。

ハンパじゃないセーブデータ。


 『携帯ドラゴン』というスマホゲーは、

 『ログインボーナス』・『お詫び』・『イベントミッション報酬』などで、

 大量に石がもらえるタイプだったので、

 無課金でも、まあまあの回数のガチャを引く事は出来た。



 それなりにガッツリとやりこんだセンエースの『携帯ドラゴンのビルド』はなかなか豪華でスキがない。

 積まれているアビリティ・外装・スキルは、大半が、

 『☆9(ゴッドレア)』で、中にはいくつか、

 『☆X(キラゴットレア)』も混じっている。


「くっ! ぬぅうう! いかん! こいつ、火力が高すぎる……押し込まれる!」

「きゅい!」



 『無課金ランキング』の『攻撃力部門』で『最大5位』にランクインした事があるセンエースの携帯ドラゴンの火力はハンパじゃない(課金勢も含めた全体ランキングでも100位以内に入った事がある)。


 圧倒的なパワーで、亜サイゾーとパラミシ・アジ・ダハーカをフルでボッコボコにする携帯ドラゴン。



「す、すげぇ……マジで、あの亜サイゾーってやつ、存在値1500の狂ったようなバケモノなのに……それを……圧倒してやがる……」



 携帯ドラゴンの強化によって、スマホ型のマジックアイテム『MDモバイル』も強化されていて、『簡易プロパティアイ』に匹敵する計測機能が追加されていた。

 その機能で、亜サイゾーやダハーカの力を計測してみたら、どちらも、本当に、とんでもないバケモノだった。


 しかし、センエースのセーブデータがインストールされた携帯ドラゴンの力は、

 そんな亜サイゾー達を圧倒している。


「つ、つよすぎ……」


 素人目にも勝敗は明らかだった。

 亜サイゾーも、切札的なスキルを投入しているが、

 どれも、結局、携帯ドラゴンには通用しなかった。


 偉大なる神がやりこんだ携帯ドラゴンのセーブデータは、ハンパな強さではなかった。


 ――そして、結果、

 ついには、




『――【ディザスター・レイ】――』




 携帯ドラゴン用の『必殺ゲロビ(攻撃力依存技)』が炸裂し、


「ぐぉおおおお!!」

「ぎぃいぎゃああああ!」


 亜サイゾーとパラミシ・アジ・ダカーハは、まとめて、木っ端みじんにふっとばされた。

 後に残ったのは、チリと残骸だけ。

 実にあっけない最後だった。



 ――携帯ドラゴンの圧倒的な姿を目の当たりにしたピーツは、



「お、鬼つえぇ……龍だけど……」



 などと呆けた顔で口走る。

 続けて、


「これだけの力を転送するための魂魄……俺の全部が必要ってのも納得……これじゃあ、消滅してもしょうがねぇ……と思うんだけど……それで、俺はいつ消えるんだ……?」


 などと、疑問に思っていると、

 手の中にいた赤子が、

 スッと音もなく消えた。


「……っ」


 一瞬だけびっくりしたが、まだ映し出されているモニターを見てみると、

 必死になって探していた母親の元に帰っていたので、


「……」


 ピーツは、ホっとしたような顔になって、小さく笑みを浮かべた。


 そんなピーツのもとに、


「きゅい!」


 携帯ドラゴンは戻ってきて、


「きゅっ」


 褒めてほしそうに、頭をさしだしてきた。


「……ありがとう。助かった……すごく強かったぞ。ちょっと強すぎて引いたくらいだ」


 言いながら、携帯ドラゴンの頭をなでるピーツ。


「ほんとうに、ハンパじゃないな、お前……もしかして、世界最強なんじゃないか?」


「きゅいぃ」


 頭をなでられて、気持ち良さそうな顔をしている小さな龍を見つめ、


「いや、マジで……たぶん、別格だぞ、お前……お前の力があったら、龍試も冒険者試験も余裕……どころか、悪の宰相とかいうやつもワンパンだと思うぞ……」


 一応、悪の宰相『ラムド・セノワール』の情報は、ピーツの頭の中にもあった。

 『ラムドが勇者を破り、その流れで、人類に宣戦布告したという話』は、世界規模のスーパー大ニュースであり、爆発的に広がっていたので、今のご時世、知らない者はあまりいない。


 世界を闇色で染めるイカれ過ぎた時限爆弾ラムド・セノワール。

 かなり厄介そうな相手だが、しかし、とはいえ、推定存在値は120ちょっと。

 存在値1500の化け物をボコボコにした携帯ドラゴンに勝てる訳がない。



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