ボーレと秘密の部屋。

ボーレと秘密の部屋。



「すでに、前期と後期で時間割はパンパン。ただ、全部の講義で単位を取れたとしても、学士を取るためには7くらい足らない。ハッキリ言って、『試験一発型の龍試』を一個は取らないとヤバい。ヤバいというか、龍試を取らないと学士号が取れない」


「……で、それがなんすか。一応、聞くんで、さっさと終わってもらえます?」


「ただ、俺の実力で試験一発型の龍試なんて受かる訳がない」


 『一回の試験に合格するだけ』で単位が貰える一発型の龍試は、そのお手ごろさとは反比例して、難易度がエゲつない。

 『学士・修士くらいは楽勝で、博士号も、順当に行けば取れる』――というハイレベルの超越者が挑戦して頻繁に不合格(不合格になったら退学というわけではない。優秀な者なら、退学ラインはさすがに超えてくる)になるという、フーマー大学校でも最高難易度のテスト。


「というわけで、俺は今、絶望の底にいる」


「でしょうねぇ。で?」


「そんなストレスを解消しようと、ここ数日の俺は、一年の頃からの日課である『フーマー大学校の謎探し』にいっそう熱をいれることになった」


「……えっと、すいません、何言ってんのかわかりません」


 あまりにも、途中で『話の流れがグイっと変化した』ので、数秒では対応しきれなかった。

 てっきり、『それでも状況的に、龍試を受けざるをえず、~~の事情で人手も必要だから云々』的な流れになるのかなと思っていたピーツの斜め上をいくボーレ。


 ピーツは渋い顔で言う。


「一応、話を聞くと言った手前、理解しようと努力はしてみたんですけどねぇ。ぇと、フーマー大学校の謎探し……って、それ、なんすか?」


「簡単に言おう。俺は、ずっと、このフーマー大学校には、なにか、すごい秘密があるんじゃないかと探っていた」


「へぇ……それって、なにか、『フーマー大学校には秘密ある』みたいな事が書かれた文献みたいなものがあったからですか?」


 当然、そういうのがあったから探索しようと思ったのだろう。

 ――では、それはどういうもの?

 『という話の流れになるものだ』とばかり思っていたピーツの脳に、


「いや、別に」


 カウンターが入った。

 情動をつかさどる箇所にコークスクリュー。


「……はぁ? 別にって……どういう……」


「俺は、ただ、純粋に、『なにか秘密があるんじゃないか? あったらいいな。謎とか暴けたら楽しそうだな』と思って、あちこち探し回っていただけだ。それ以上でも、それ以下でもない」


(……どこのハルヒだよ……)


「ちなみに、俺は、この学校の秘密を探すのに、この8年間、毎日8時間以上を費やしてきた」

「その時間を勉強にあてれば、余裕で学士号がとれたんじゃ」


「当たり前のことをいうな!」

「当たり前のことを言われるな」


「正論は聞きたくない! 甘い言葉だけほしい」

「クズが……」


「苦節八年、俺の労力が、ついに身を結んで、俺は、本当に、『秘密の部屋』への入り口を発見したのだ」

「……ぇ」


 またもや、話の流れがグイっとして混乱するピーツに、

 ボーレは続けて、


「まさか、本当に『謎』があるとは思っていなかったから、発見した時は普通にチビった!」

「それが本当なら、多少、興味深いが……なんで、その話を俺にする?」


「俺の偉業を自慢したかったからだ! そして、他のやつは、話を聞いてくれそうになかったからだ! 最下位のお前は、その点で非常に都合がよかった!」

「なるほど。バッチリキッチリと『ナメられているだけ』って事か」


「そのとおり! しかし、これはチャンスだぞ、ピーツ少年。今のところ、秘密の部屋の存在を知っているのは、俺とお前だけだ。もし、秘密の部屋に、とんでもない御宝(おたから)があったら、お前にもワケ前をやろう。当然、9:1だが、0よりは遥かにいいだろう」


「とんでもない宝があればの話だが……というか、仮に宝があったとしたら、黙っていた場合、普通に総取りできたのに、なんで、わざわざ、9:1にしてまで、俺に喋った?」

「何度も言わすな! 自慢したかったからだ! 俺は、俺の偉業を、とにかく、誰かに喋りたかった!」

「……ほんと、すげぇバカだな、お前……」


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