落ちこぼれ八年生のボーレ。

落ちこぼれ八年生のボーレ。



 午後の授業が始まるが、やはり、教師の言っている事は、ほとんど理解できなかった。


(うん、ダメだな……根本から勉強をやりなおさないと、話にならない……今は、ラスボスがどうとか言っている余裕はない。あのソルとかいう神様には申し訳ないが、今の俺だと、何もできん。まずは、基礎勉強だ)


 概念理解の基盤となる、基本的な用語・単語の暗記が出来ていない状態なので、

 教師の話など、いくら聞いても無駄だった。


 こんなどうしようもない状態では、どんな手を使おうと、悪の宰相を倒す事など不可能。

 冒険者試験や、龍試なんて夢のまた夢!


(とにかく、基礎固めの用語暗記を徹底する。『理解』は結果としてついてくるもの……まずは、詰め込めるだけ詰め込む)


 決意したピーツは、教師の話を耳からシャットアウトして、

 教科書の頭から読み直す。


(闘気学概論……オーラとは、自然界に存在する最も根源的な構成単位であり、エネルギーという概念の中核に――つまり、血に対する推動作用や――)


 夢中で読み進めていると、

 チャイムが鳴って、講義は終わった。

 序論を読むだけで1コマが終わってしまった。

 闘気学概論の教科書は広辞苑サイズなので、90分そこらでは触りしか読めない。


(まとまった時間がいるな……どうせ、単位なんか取れないんだから、授業には出ずに、ひたすら知識に触れた方が賢明か……)


 いったん、教科書を閉じるが、


(そうだな……今はなにより、用語の洪水を浴びるべき……問題は方法。ネットがあれば、ウィキを周回サーフィンしているだけでも充分なんだが……ないとなると、やっぱり図書館になってくるかな)


 心の中でそうつぶやくと、


「よし、行くか」


 すぐさま決断し、足を動かす。


 勉強の仕方なら知っている。

 努力が出来る器は持っている。


 『面倒臭い事を地道に続けられる能力』なら、この世の誰にも負ける気がしない!

 それが、『閃壱番』という、狂気の第一アルファ人!!


(今のままじゃあ、悪の宰相ラムドを倒すなんて到底無理……だが、今のままで終わる気はねぇ。『周囲の全員からバカにされている』という、この『最下位という状況』はむしろ、俺を強く輝かせる)


 ドMだから?

 違う。

 プライドが高いから。


(――俺をナメんなよ、天才ども。俺は、これまで、『行きたくない学校に意地でも通い続け、やりたくない勉強でも、それなりに頑張って、普通に上位を取ってきた』というラリった経歴を持つ破格のド変態だぞ。念願だった異世界にこられて、『剣や魔法を学べる』という状況になった俺の、解き放たれた本物の集中力……とくと見せてやる)


 ★


 図書館でこもり、ひたすらに知識を浴びるピーツ。

 勉強開始から3時間が過ぎたところで、


「よう、最下位くん」


 デブのメガネボーイが声をかけてきた。


「……」


「無視はよろしくないねぇ。一応、俺は8年生。君よりだいぶ先輩だよ」


「……なんか用すか?」


「用がなければ、隣に座って話しかけたりしない」


「でしょうねぇ。で?」


「君にとって、非常にメリットがある話をもってきた」


「そうですか」


「なぜ、そんなに目が死んでいるのかな?」


「聞く気がないからでしょうね。でも、どうぞ、しゃべってください。俺は本を読んでいますので」


 そう言って本に視線をうつすと、

 横から、その本をバンっとしめるデブ。


 デブは、ニコっと微笑み、


「俺は八年生のボーレ。今年、学士をとらないと退学なんだが、単位的に、ギリギリなんだ」


 ボーレは、ピーツの返事を待たず、

 たんたんと、


「すでに、前期と後期で時間割はパンパン。ただ、全部の講義で単位を取れたとしても、学士を取るためには7くらい足らない。ハッキリ言って、『試験一発型の龍試』を一個は取らないとヤバい。ヤバいというか、龍試を取らないと学士号が取れない」



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