学内ランキング5位のカルシィ。

学内ランキング5位のカルシィ。



 周りの小馬鹿にしたような笑い声をうけて、ピーツは、


(おぉ……なかなか惨めだな……独りは慣れているから、苦じゃないが……見下されて気持ち良くなる特殊体質ではないからなぁ……)


 心の中でつぶやきながら、


(さて、どうしたものか……)


 悩んでいると、


「立ち去らなくていい。ここで、私と一緒に食べればいい」


 後ろから現れた、宝塚系の美男子系美女がそう言った。


「君には少し興味がある。少し話そう」


「え……あ、はぁ……」


 曖昧な返事をしつつ、

 ピーツはとりあえず、許しも得ていることなので、席に座った。


「君は一年生のピーツだな」


 名前を言い当てられて、ピーツは、少しだけドキっとする。

 別に興奮したワケではない。

 いぶかしんだだけ。


「私は、学内ランキング5位のカルシィだ。よろしく」


「どうも……てか、俺みたいなヤツのことを、よく御存じで。まさか、2000人以上いる学生全員の顔と名前を全部?」


「いや。私が覚えているのは、上位100名と、最下位だけだよ」


「……上位100名を覚えるのは、色々な意味で大きな意味がありそうですけど、最下位の顔と名前を覚える意義は……?」


「実感したいから……かな」


「……?」


「自分がどれだけ頑張っているか。その結果、頑張っていない者との間に、どれだけの差が出来ているのか。それを、君のような者を知る事で、実感できる」


「……歪んでいる……ってほどでもないですかね。誰の心にも存在する『普通の感情』の一つだと思います。それを、相手の目の前で正直にぶっちゃける必要はないと思いますが」


「私は陰湿な存在ではありたくないと思っている。それなりに醜悪だという自覚はあるが、しかし、君が言ったように、この感情は、誰しもが持っている『人としての弱い部分』だ。私はそれを認めて受け入れている」


「……真摯……といえるような内容ではないと思いますが……まあ、正直なぶん、確かに陰湿ではないですね」


「話の分かる男だ。嫌いではない。君に好意を抱くという事は死んでもありえないが」


「……そうすか……」


 何とも言えない微妙な顔になるピーツ。

 ただ、目の前にいる、この宝塚風イケメン系美女の事が、そこまで嫌いではなかった。


 そのため、ブチキレたり、怒鳴り合ったり、バチバチと睨みあったり、という事にはならず、粛々と会話は進んでいく。


「いやぁ、しかし、君を見ていると、本当に心が安らぐ。自分に自信がつく。やる気がみなぎる。君のような存在は貴重だ」


「……うれしいです。そんなに褒められた事はなかったんで……」


 死んだ目でそう答えるピーツ。

 あまりにもハッキリと言われすぎたため、不快感すら抱かなかった。


 彼女は続けて、


「今後もぜひ、その調子で、揺るがない最下位道を突き進んでくれたまえ。あ、そうだ。一つお願いがあるのだが、いいかな?」


「お願いっすか……なんでしょう」


「そろそろテスト期間に入るだろう?」


「そうですね。憂鬱です」


「テスト期間が終了して、三週間後に前期の成績表が配られるのだが、それをぜひ、私に売ってくれないか? 金貨5枚出そう」


「なかなかの額を出しますね。冒険者試験が受けられる金額じゃないすか……学生の身で貯めようと思うと、かなりしんどい額とも言えます」


「今年の冒険者試験は既に始まっているから金があっても受けられないがね。指定の龍試を突破すれば、二次からの参加が認められるらしいが……まあ、君には関係のない話だ」


「それはそうと……俺の成績とか買ってどうするんですか?」


「決まっている。額に入れて飾って、毎日拝むんだよ。こうはなりませんように、と」


「なるほど、意識が高いですね」


「そうだろう、はっはっは」

「ですねぇ、はっはっは」


 終始、死んだ目で喋っているピーツと、快活な笑顔を見せる彼女。


 こうして、和やかな昼休みは終わった。

 ピーツの最下位から始まるエリート学校生活は、あまりにも前途多難だった。




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