「主上様、私を縛ってください」「え、いや、俺、そっちの趣味は――」

「主上様、私を縛ってください」「え、いや、俺、そっちの趣味は――」



 決して、平は、アダムを煽っている訳ではない。

 平の『恒常的低姿勢』は、決して慇懃無礼ではなく、『誰に対しても礼儀を欠くべきではない』という本心からくるもの。

 つまり、全ての発言が、ただの本心。


 平は確信している。



 ――自分たちこそが、最も神を想っている――



 狂信者はアダム一人じゃなかった。

 それだけの話。



 ――そこで、アダムは、


「ミシャンド/ラ!! ゾメガ・オルゴレアム!」


 闘いに没頭している二人を呼びとめる。

 あまりに強大な覇気がこもった叫びに、二人の足は、ピタっと止まった。

 そして、「なんだ、なんだ?」と、二人の視線はアダムを追う。


 アダムは言う。


「今、私は、非常に不愉快な発言を耳にした。貴様らの同僚である『この勘違い野郎』は、よりにもよって、この私の前で、『この世で最も主上様を想っているのは三至である』などと、寝ぼけた事をぬかしよった。その狂った発言について、貴様らはどう思う! 忌憚のない意見を聞かせろ」


 その問いに対し、ミシャとゾメガが、


「どうって……ただの事実じゃない? それがどうしたというの?」

「そうじゃな。どこも狂ってはおらんと思うんじゃが……」


 揃って、そんな事を言った。

 それを受けて、アダムは、


「なるほど……なるほど……よく分かった」


 コメカミに怒りマークを浮かべたまま、ニッコリとした影のある笑顔で、うんうんと頷きつつ、


「部下の勘違いを正すのは、上司の役目……貴様らに、現実を教えてやろう」


 そう言ってから、アダムは、客席から戦場へと降りた。


 そして、心の中で、


(主上様。少しよろしいでしょうか)


 己の神にメッセージを送る。




(――ん? どしたん?)




 呑気な返事をくれる神に、アダムは希(こいねが)う。


(私を縛ってくださいませ)


(……え……)


 アダムの発言に、神は焦り、揺らぎ、


(…………ぁ、いや……俺、そっちの趣味は……)


(先ほど送らせていただいたゾメガ、平、ミシャのデータをもとに、あの三名と存在値が同程度になるよう、私を縛っていただきたいのです。お手数をおかけいたしますが、どうか、この願いを聞き届けていただきたく)


(……ああ、そういう……なに、あいつらと闘うの?)


(はい。観測するだけよりも、そちらの方が、より詳細なデータが取れるかと思いまして)


(……まあ、そうだな。いいよ、分かった)


 そこで、アダムの耳に、

 センが指をパチンと鳴らした音が響いた。


(だいたい、このくらいだろう。いやぁ、しかし、あいつら、まだ『超神化』を覚えていないのに、この次元に達しているとは、凄まじいな。流石、俺の愛する弟子たち。まじで、あいつら、最終的に、究極超神になれちゃうかもなぁ)


 そこで、通信は切れた。


 残されたアダムの目には、 


(愛……愛する……)


 ドス黒い嫉妬の色が浮かんでいた。


(この世で最も主上様を愛しているのはこの私だ……主上様に最も愛されるのも……この私なんだよぉおおお!)


 膨れ上がる怒りを飲み込んで、アダムは、




「――三人同時に相手してやる。現状、私と貴様らの存在値に差はほとんどないが……主上様に対する想いはケタが違うからなぁ……三対一だろうと、関係なく、私が勝つ。その結果・その事実を、心に刻みつけろ」




「アダムさんとは是非闘ってみたいと思っていたので、その申し出は大歓迎ですが……三対一はいただけませんねぇ」


「そうね。三対一だと、こっちが、そっちをボコボコにするだけで、鍛錬にはならない。私たちと存在値が『同等の相手』なんて、滅多にいないんだから、やるなら、ちゃんと実のある闘いにしたいわ」


「……そもそも、『師に対する想いの量』が違うから、三対一でも勝てるという、その言い分が、あまりに謎過ぎるんじゃが」



「ゴチャゴチャぬかすな! 黙ってかかってこい!」

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