壁の超え方。

壁の超え方。


「――ただ、『レベル以外の枠』を底上げする『速度』は、まあ、もちろん以前より上がっていますが、しかし、『レベルアップのペースには追い付いていない』ので、ここからは、ガクっとペースダウンするでしょうね。おそらく、ボクらは、全員、『正式な高み』にたどりつく二段階ほど前で、『強さ』の『大迷宮』にハマるでしょう」


「ずいぶんと弱気な発言だな」


「いえ、弱気とは違いますね」


 ハッキリと否定してきた平熱マンの発言を受けて、

 アダムの視線が、少しだけ、平熱マンに寄った。

 直視ではないが、視界の端には入っている。


「どんな天才であっても、いつかは、壁にぶつかります。『才能』は、あくまでも、ブースト……『壁』の『手前』まで、誰が『もっとも早く辿りつけるか』を表す指数・要因でしかなく、『壁を超えられるかどうか』という現象に直接干渉できるものではありません。ソコを理解し、壁を超えるために血反吐を吐いた者だけが、『本物』になれる可能性を持つのです」


 壁をゴールだと勘違いするバカや、『自分は天才だから』とタカをくくって壁の前で昼寝を始めるクズは、結局、凡夫で終わる。


「ふむ……で?」


「ボクらは、壁の超え方を知っている。なぜなら、師が教えてくれたから」


 平熱マンは、まっすぐな笑顔で、




「伊達や酔狂で、師の弟子を名乗っている訳ではありません。壁を超えるために吐かなければいけない血の量は、師が身を持って教えてくれました。だから、ボクたちは止まらない。止まる訳にはいかない。それだけの話です」




「……うむ。どうやら、『冷静な自己客観視』はできているようだな。もし、爆発的に上昇した存在値による万能感に酔い、愚かしく図に乗っているようだったら、ボコボコにして目を覚まさせてやろうと思っていたのだが……どうやら、そんな事をする必要はないようだ」


「もちろん、最初は驚きましたよ。これまでの常識が一気に吹っ飛んだ訳ですから。正直、神になるだけで、ここまで存在値がインフレするとは思っていませんでした――が……結局のところ、『下地』の上に『どう積むか』という話でしかありませんからね。土台がしっかりしていなければ、神の力を得ても、ただ数字が膨れ上がるだけ。そんなハリボテを『強さ』と呼ぶほど、ボクらは幼くない」


 神となり、神固有の覚醒技を使う事で、存在値は、楽に、10万や100万と膨れ上がっていく。

 現世の常識から考えれば、その数字だけでもとんでもない事。

 だが、平たちは、数字に溺れたりはしない。

 数字に惑わされる愚者など、ゼノリカにふさわしくない。


「それに、繰り返しになりますが、ボクらは師を知っている訳ですから。常に、ボクらの『遥か前』を進み続ける偉大なる命の王。師がどれほどの領域に至っているか、今のボクらごときでははかり切れませんが、しかし、師であれば、今のボクらですら、まるで手の届かない場所に立っているであろうことは明白。急激に強くなったことによって生じる万能感は確かにありますが、それに酔い潰れるようでは、師の弟子は名乗れません」


「よい心がけだ。これからも、その調子で、弛まぬ努力を続け、一歩でも、半歩でも前に進め。それを、主上様は望まれている」


「言われるまでもなく」



 ――そこで、

 平は、

 少し胸を張って、






「ボクたち『三至』は、『この世の誰よりも師を想う者』……師の望みに違(たが)う事などありえません」






「……」






「どうしました、アダムさん」


「随分と……傲慢な発言が聞こえたな……」


 そこで、アダムは、平を睨みつけ、


「この世の誰よりも主上様を想っている? 貴様らが?」


「そうですが……そんな『ただの事実』がどうかしましたか?」



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