問い一。

問い一。


「問い一――」


 と、言ってから、エグゾギアを纏っているその『誰か』は、少しだけ逡巡し、


「――を問うために必要な前提を、これから、三つほど並べていく。耳をかっぽじれ」


 そう前を置いてから、


「まず、前提1。現在、この空間は、ゼノリカによって、機動魔法を制御するフィールドが展開されている」


 そう言ったのを聞いて、ゼンは頭をまわした。


 呆けている余裕はない。

 目の前には、エグゾギアを纏っている『敵かどうか分からない誰か』がいる。

 ――必死に、情報を処理していき、


「……『俺に対して厳しい特殊性を、たまたま、このダンジョンが持ち合わせていた』という訳じゃなく、『ゼノリカが能動的に展開している』と……ふむ……」


 テンパりそうになる脳を、精神力でムリヤリ抑えつけて、


「……ちなみに、なんで、あんたはエグゾギアが使えんの?」


 必要な情報を回収しようとする。


「オレのシステムには、ゼノリカのジャマーに対するキャンセラーが搭載されているからだ。おかげで、こうしてエグゾギアを使えているが、キャンセラー発動中は、いくつか制限を受ける。まあ、ようするに、エグゾギアを使えるは使えるが、本来の力では使えないという事だ」



「ジャマーキャンセラーねぇ……へぇ……」



「ゼノリカの支配下にあるのはこのフロアだけではなく、ダンジョン全て。つまり、お前は、現在、敵の胃袋の中にいるという事だ」


「恐いね」


 自分に発破をかける意味もある『強がりの軽口』を発してから、ゼンは、


「もう聞くまでもないけど、一応、聞いておこうか。……俺の現状は、冒険者試験の真っ最中で、冒険者試験はフーマー主催……つまり、フーマーも、ゼノリカって認識でいいんだよな?」


 頭をまわして言葉を並べるゼンに、

 その『誰か』は言う。


「あんなしょうもない小国がゼノリカな訳ないだろう。『正式な意味』で言えば、フーマーとゼノリカの間には、ほんのわずかな関係性すらない。ゼノリカをナメるな」


「? よくわからないな……フーマーは、表だけじゃなくて、裏にも浸透していると聞いたぞ。なのに、裏の全てを支配しているゼノリカと、わずかな関わり合いすらないっていうのは、どういう……」


「ゼノリカはそんな安い次元じゃないってことだ。もちろんフーマーも、ほぼゼノリカの手中にあるが、決してゼノリカの一部ではない。ゼノリカに所属できるのは、選ばれた超越者のみ。そして、『ゼノリカに属する、選ばれた超越者』の視点では、『ゼノリカ以外』はすべて、例外なく、命も物も、『ゼノリカによって消費される資源』でしかない」


「……まるで『悪の定義』を体現しているような組織だな……」


「問い一を問うために必要な、『前提その2』――世界というのは無数にある。今、お前がいるこの世界は、そんな無数にある世界の中の一つに過ぎない」


(……まあ、その辺は神様から与えられた知識で知っているが……)


「そして、世界には序列がある。基本的には、その世界に存在する『生命の質』による格付け」


「一番上がアルファで、次がベータで、その次がエックスだろ? そのくらい知っているよ。で、それが?」


「ゼノリカは、『その序列』の超最上位の中の超最上位世界である『第2~第9』までの、全てのアルファを、裏表関係なく完全に支配している超巨大組織」



(……す、すげぇな、ゼノリカ。世界征服をもくろむ悪の組織は、物語なんかだとよくあるけど、ゼノリカは、それをバリバリ実現したってことか)



 それも、一つの世界だけではなく、上位に位置するほぼすべての世界を――



(しかし……裏表関係なくっていうのは、どういうことだ? 『ゼノリカは表に出ない組織だ』と神様は言っていた……もしかして、それは、いま俺がいる『この世界』限定の話ってこと……?)

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