面白いバカ。

面白いバカ。



 アビスのおかげで、ゼノリカが、どれだけ異常な組織なのか、少しだけ理解できた。


 だが、ゼノリカが強大である事など、最初から分かっていた。

 『予想していたよりもだいぶ大きそうだから』と言って投げだしたりはしない。


「俺はゴミだ……どうしようもねぇ、ただの生ごみ……だが、ゴミにもゴミなりの意地はある」


 ゼンは、気合いを入れ直す。


 『エグゾギア』という支えを失った事で生じた心のスキマ。


 だが、『ゼン(センエース)』は、

 いつまでも弱さに犯されたまま黙っているほど脆くはない!


 『人間としての弱さ』は当然のように持っている、が、

 そんなしょうもない歪みに、いつまでも負け続けるほどヤワじゃない。


 『当たり前のように持ち合わせている、人らしい弱さ』を、『底意地だけで乗り越える、ぶっとんだイカれっぷり』。

 それこそが、『ゼン(センエース)』最大の強み。


 『センエース』という神は、『最初』から『無敵』だった訳じゃない。

 人としての当然の弱さと向き合い、

 全ての弱さを必死に乗り越えた結晶。


 卑怯で矮小でワガママで汚らわしい『己を喰い殺そうとする弱い心』。

 そんな弱い心と、向き合い、抗い、立ち向かい、

 みっともない『勇気』を積んだ結晶が、究極超神センエース。


 その境地に、

 ゼンは、今日、一歩近づく。

 情けなくて、泥臭くて、

 吐き気がするほどダサくてみっともない、そんな勇気のある一歩。



「倒してやる……」



 心のスキに流されて弱音を吐くのは、もう飽きた!

 目の前に広がる絶望が、どれだけ大きく深くとも、

 バカみたいに、『ヒーロー見参』と叫んでみせる!


 ゼンは息を吸って、


「倒してやるよ! 悪に狂ったバカどもを! くだらねぇ不条理を! 全部まるごと、この手で、サクっと殺してやるよ! そして、本物の『めでたし、めでたし』をこの世界にくれてやる!」


 そう叫んだ、その時、






「――おもしろいバカ、発見――」







 どこからか、声が聞こえた――と思った直後、



「アビス、お前、邪魔だ。消えてろ」



 突如出現したジオメトリから這い出てきた、エグゾギアに身を包んでいる『誰か』が、アビスに豪速の裏拳を叩き込んだ。

 えげつない衝撃音がして、悲鳴をあげるまもなく蒸発するアビス。


 そんな光景を、ポカンとした顔で見ているゼンに、

 その『誰か』は、


「ゼノリカを知った上で『ゼノリカを倒す』とハシャげるバカがいるとは思わなかった……お前には、『オレ』のテストを受ける資格がある」


 ゼンは、


「ぁ……っ……」


 目の前でアビスが蒸発したという事実に、数秒ほど呆けていたが、

 しかし、

 それよりも、なによりも、


「……そ、それ……」


 わなわなと指をさしながら、


「も、もしかして……エグゾギア……?」


 『自分以外にも使い手がいたのか』とか、『このフロアって確かエグゾギアが使えないんじゃ』などの疑問が溢れた。


 解答を求めるゼンに、しかし、その『誰か』は、


「愚問にもほどがある。見れば分かるだろ」


 吐き捨ててから、


「そんな事はどうでもいい。それより――」


 困惑しているゼンの感情など完全にシカト。

 そのまま、その『誰か』は、


「お前に二つ質問する。答えろ」


「……ぇ、しつもん?」


「問い一。……を問うために必要な前提を、これから、三つほど並べていく。耳をかっぽじれ。前提1。現在、この空間は、ゼノリカによって、機動魔法を制御するフィールドが展開されている」


「……『俺に対して厳しい特殊性を、たまたま、このダンジョンが持ち合わせていた』という訳じゃなく、ゼノリカが能動的に展開していると……ふむ……ちなみに、なんで、あんたはエグゾギアが使えんの?」


「オレのシステムには、ゼノリカのジャマーに対するキャンセラーが搭載されているからだ。おかげで、こうしてエグゾギアを使えているが、キャンセラー発動中は、いくつか制限を受ける。まあ、ようするに、エグゾギアを使えるは使えるが、本来の力では使えないという事だ」



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