聖なる死の喝采を聞け。

聖なる死の喝采を聞け。



 ガタンと、ブレーカーが落ちるような音がした。

 ほどなくして、ズズンっと崩れ落ちる音。


 軸が自由を失って、両膝が地について、勝手に頭部が下がって、


 その下がった頭部を、上から、ガツンと踏みつけられる。



 ――『己の現状』が理解できたフッキは、ワナワナと震えながら、


『バカ……な……どういう事だ……俺は最強……無敵……それが真理で……』


 ぽつりと言葉をこぼす。

 そんなフッキを見下ろしながら、


「その思想そのものを愚かとは言わないさ。『己の中』でどんな真理を飼おうが、それは個々の自由。しかし、それを『俺に押しつけよう』ってんなら、『お前の真理』が本当に『真』なのか、それとも『偽』なのか、ハッキリさせる必要が出てくる。条理ってやつさ」


 言いながら、センは、

 フッキを縛っていた『デバフ』の類を全て解除する。


 フッキの視界が、サァっと開けて、感覚の全てが元に戻る。

 目の前には、強大なオーラを纏っている神がいた。


 言葉に出来ない神々しさ。

 異次元の領域に至った真なる神の姿。



「もしお前が最強なら、お前よりも遥かに強い俺は、いったいなんだ? 答えを持つなら並べてみろよ。端から踏みにじってやるからよ」



『……』



「どうした、ガラクタ。さっさと答えろ。お前が最強なら、俺はいったいなんなんだ?」


『ぉ……お前は……いったい……』






「俺は、究極超神の序列一位。神界の深層を統べる暴君にして、運命を調律する神威の桜華――舞い散る閃光センエース」






『……』


「――最強を経て、限界を超え、しかし、いまだ、貪欲に、『最果て』を追い求め続けている『この俺』ですら、いまだ真理は得ていない。俺ですら、まだまだ、ナニモノでもない……それを踏まえた上で答えろ。お前は、本当に、真理を体現する最強か?」



 問われて、フッキ・ゴーレムのコアに熱が灯った。

 グァアと燃えがある。

 だから、






『もちろんだ』






 覚悟をこめて、答える。


 ギュィインと、何かが加速する音がした。

 フッキ・ゴーレムの存在値が、爆発的に上昇していく、


『神の王を名乗る愚者よ。確かにお前の強さは領域外にある。間違いなく、【今の俺】よりも強い。称賛に値する高み。正直に言おう。驚かされた。それは事実。まさか、お前ほどの存在がいるとは思っていなかった。だが、お前など、しょせんは、今の俺より強いだけで、【輝く俺】よりは弱い』


「へぇー」


『正直、【これ】を使う時がくるとは思っていなかった。あの世で誇れ。お前はそれだけ強かった』



 言うと、フッキは、カチっとモノアイを閉じて、



『……聖なる死の喝采を聞け……』



 ボソっと、そうつぶやいてから、


『出番だ……聖なる死神セイバーリッチ、召喚』


 宣言の直後、無数のジオメトリが、空間を覆い尽くすような勢いで顕現。



[ぐぬぅう]


 ギギギと歪な音をたて、空間を切り裂き、粒子をわななかせ、


[ぬぁああああああ]


 次第にソレの姿が鮮明になる。


[ぐはぁ……ふぅ……はぁ……はぁ……]


 銀の炎を宿す三つ目。

 ダークオーラに包まれた、漆黒のスケルトン。

 そんな闇色のガイコツを覆う気品のある聖銀のローブ。

 右手には光り輝く聖剣、左手には禍々しい巨大な鎌を持つ――極悪なフォルムの化け物。




(ほう……セイバーリッチを召喚出来るのか……フッキとセイバーの組み合わせってことは……もしかして、このガラクタ、エグゾギアが使えるのか?)




 あらわれたるは、『死の具現』。

 『領域外に至った超高次生命』が『3兆GP』という膨大な軌跡を注ぐことでしか契約出来ない超高位召喚獣。


[……ごきげんよう。私は『聖なる死神セイバーリッチ』。異形の頂点。この世を究極の邪悪で照らす、漆黒の輝き。さあ、私の前に立つ哀れな子羊よ。聖なる絶望を数えろ]




(あいかわらず、イタいなぁ……セイバーリッチ……)



 センが心の中で、そんな事を呟いていると、フッキは、続けて、





『さあ! セイバーリッチ! 俺を纏い踊れ! ハイドラ・エグゾギア‐システム、起動!』





 キィイインと、統率された光の音が加速して、冷たい粒が収束していく。

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