スリーピース・カースソルジャーの御披露目。

スリーピース・カースソルジャーの御披露目。


 セア聖国の代表『プッチ』は、この混沌とした状況を冷静に俯瞰して、魔王国の女王リーン・サクリファイス・ゾーンに対し同情した。

 ここまで、プッチは、魔王国に対し、口では、それなりに強い事も言ってきたし、誰よりもラムドの力を欲しているのも事実だが、本心では、決して、リーンを貶めたかったわけではない。


(リーンの思想は本物だ。もし、人類が、もう少し『マシな存在』だったなら、『ぜひ指導者になってもらいたい』と思ってしまうほどの崇高な理想の持ち主)


 プッチは、簡単に言えばロリコンである。

 幼い見た目の女に食指が動く。

 単純に、趣味嗜好の方向性が多少『平均』から外れているだけで、別に、性犯罪者ではない(年齢に対して惹かれるのではなく、童顔や小柄な体躯に惹かれる)。

 だからって無条件にリーンを肯定する事はないが、しかし、その性癖ゆえに、リーンに対して、他の代表達よりも多少甘くなってしまう所があるのも事実だった。

 より正確に言うなら、甘くなるというより、リーンの思想に『同調してしまうところ』が『なくもない』といったところ。

 タイプの女が言っている事には頷きたいという、単純な心理。

 とはいえ、


(だが、不完全な人類ではリーンの理想を叶えることはできない。彼女の理想を現実にしようとすれば、完全無欠の神が必要となる。だが、この世界に十全な神はいない。いや、仮に完全な神がいたとしても、人は、神の完全性を信じられないだろうから、結果は同じだろう。所詮、人は人なのだ。崇高な理想には届かない。その現実が見えていないリーンは、結果、世界の支配者たりえない)


 プッチは極まった現実主義者であり、かつ国の代表でもあるため、『自身がロリコンで、相手がロリだから』といって『この場での間違った判断』はくださない。


 セアは、ラムドを欲している。

 だが、牙を向くなら話は別だ。

 プッチは魔王国に対して同情的である。

 しかし、人類の敵となるなら殲滅する。


(その性質上、『無謀な理想』を追い続けざるをえないリーンは、ここでも、とうぜん、ラムドの暴走を見過ごすことはできない。仮にラムドの切札が現存していたとしても、勇者・リーンと、たてつづけに、世界最高峰の実力者と闘い、リソースを削られまくったラムドなど恐くもなんともない。つまり、ここは静観し、リーンとのぶつかりを見守るのがベスト。リーンとの戦いで疲弊したラムドが相手なら、サーナとカバノンが出るまでもなく、非力な私一人でもなんなく殺し切れるだろう)






 ――各国の代表が予測した通り、現在、リーン・サクリファイス・ゾーンは、ラムドに対して怒り狂っていた。

 眉間にシワを寄せた真っ赤な顔で、ググっとラムドを睨みつけている。


 『貴様は、何を言っている』


 言葉にこそしていないが、その目は叫んでいた。

 『もう喋るな、黙れ』と態度で威圧する。


 ゆえに、どの国家の首脳陣も、まだ、呑気な顔をしていた。

 もしも、かりに、万が一、ラムドが強硬手段に出たとしても、

 必ず、リーンが止め――




「こい、スリーピース・カースソルジャー」




 一気に――緊張状態に陥った。

 ラムドが、死色に濡れた兵士を三体召喚したことで、

 誰もが、止まらない冷や汗を流す。


((((まさか、本当に強硬手段に出るとは――っっ))))


 どこかで、流石に『ないだろう』と思っていた各国の首脳陣。

 この場は、フーマーを調停者に置いた話し合いの席。

 どれだけヒートアップしたとしても舌戦にとどまるだろう。

 そう思っていた。


 ――だが、ラムドは躊躇なくカードを切った。

 それも、一目で痛感するジョーカー(番外の切札)を。

 となれば、とうぜん、これまでのような『呑気』は通せない。


(な、なんだ、あのおぞましい魔力は……)

(まさか、あれが勇者を殺した力?)

(勇者を相手に使いきった訳ではないのか……っ)


 ラムドによって召喚された三体の兵士は、とんでもないオーラを発していた。

 一体で勇者に匹敵するほどの力を持つ化け物が、合計三体。


 一気に膨れ上がる恐怖と絶望。


 ラムドは言う。


「お前らはミスをした。俺をナメた。その代償を払ってもらう」


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