『究極の可能性』と、

『究極の可能性』と、


 既に絶死のアリア・ギアスを使って死が確定しているUV1。

 命を捨ててなお、一匹も殺せないイフリートが7体。

 ゴートの手札はブタ。

 アイテム等も、使えそうなモノは皆無。


 完全に詰んでいる。

 『蝉原勇吾の悪意に溺れていた時』よりもハッキリとした、完全に詰んでいる状態。

 諦めるしかないこの状況で、


 ――ゴートの視界にうつるのは、



「ぐ……ふっ……くっ」



 リミットを間近に控えて焦ったUV1の悪手にカウンターを決めているイフリート。


「うぅう! くっ!」


 炎の鎖で足を止められた。

 上空から炎の護封槍が降っている。

 攻撃というより、とにかくUV1の動きを重くする最善手の連珠。



「「「「「「「素晴らしい強さだった。心底敬服する。我々に心などないがね」」」」」」」






 淡々と、UV1から距離を取りつつ、そんな皮肉を口にする。

 感情がないからこそ通る皮肉。

 『製作者』の底意地の悪さがうかがえる。


 既に、UV1はガチガチに動きを封じられた。

 もはや、一歩も動けない。

 この状況下でも、イフリートたちは、

 念押しに、呪縛系のスキルを重ねがけしてくる。


 つまり、正式なゲームセット。

 本当の終わり。


 そして、リミット目前。

 UV1の頭に、恐怖が沸きあがった。

 死に対する恐怖ではない。

 ――『何も出来なかった』という事実が恐ろしい。

 結局、何も成せなかった。

 バロールからの命令を何一つ果たせていない。

 ただ、無様にあがいて死んだだけ。



「――がっ……ぁ……」



 限界を目前にしたUV1は、白目をむいて血を吐きだした。

 膨れ上がっていた赤いオーラが目に見えて弱弱しくなっていく。


 『命がけで護ってくれた女』が死にかけている――その現実を見て、

 ついにゴートの頭が飛んだ。


 無意味だが、


「くっそぉ!」


 飛びだした。

 UV1を助けたいという情動が、今のゴートを動かしている。

 しかし、手はない。

 何も思いついていない。


 つまり、これは、ほとんど、『諦め』に近い行動。

 命を無駄に捨てる行動。

 分かっている。

 そんなことは、ゴートだって理解している。



 けれど、理性はもう死んでいた。



 ただ、死に向かって突っ走る。

 極まった感情。

 どう表現すればいいのか分からない複雑な感情が、

 ゴートの全てを刺激して、ボロボロと涙を流させる。

 諦めたくない。

 死にたくない。

 けど、

 わからないんだ。

 どうしたらいいか、わからな――






 ――その時、






 ゴートの指にはまっている指輪がカっと光った。

 深い輝きが、一瞬、空間を埋め尽くす。

 複数のジオメトリが連鎖して、空間の中で幻想的に織り合った。


 すべての線が揺らぎながら重なって、

 立体的な美しい幾何となって、それが淡いだけの光になる。


 モヤモヤとした光が、瞬時にかわいらしい女の子の形になって、

 そして、







「テプ0時を過ぎたよぉー」






 ガチャルトホテプが出現して、


「さあ、一日一回の『ガチャルトホテプ・ガチャ』チャーンス。さあ、君は何を引けるかなぁ……って、あれ? どうして泣いているのぉ?」


「……一日……テプ0時……」


 そこで、ゴートは、キキィっと自分にブレーキをかけて、その場に立ち止り、

 状況を理解しようと必死に頭をまわす。


 どうやら、ガチャルトホテプの一日とは、出現してから一日ではなく、

 『テプ0時』とやらを過ぎるかどうかが問題らしい。


 テプ0時というのが、何時の事なのか、よく分からないが、

 ようするに、ガチャルトホテプが感じている一日の中で、

 『今らへん』を過ぎた時を指すのだろうと、即時判断するゴート。


 ガチっと、頭のギアがかみあった。

 一瞬で冷たく燃えたゴートは、

 ガチャルトホテプを抱き寄せて、


「頼むぅ! なんでもいい! この状況をどうにか出来る力を!!」


 ギュっと、願いを込めるように、テプの頬に唇をおしつけた。


 すると、







 ???のアリア・ギアス発動。


 ?????????????????????????????







 当然のように、またもや発動する異常事態。


 結果、



 当たり前のように、テプの右目が黄金に輝いた。

 そして、一度、強烈に重たい光を、カっと放つ。

 揺らめいて、ビキシィっと、世界全体にヒビが入るような音がした。


 ――ガチャルトホテプは、


「わー、おめでとぉおおお! ていうか、すごーい!! お兄さん、本当にすごいねぇ。二回連続で究極当たりを引くなんて、そんな人、はじめてだよぉ」


 言いながら、テプは、自身の右手を、ゴートの額に押しつける。

 そして、ゴートに力をインストールしつつ、同時に情報を流しこむ。

 その間、コンマ数秒。


『究極大当たりの内容は、『サイコイヴ‐システム』の解禁だよぉ! サイコイヴ‐システムは、全システムの中でも、トップクラスの力を持つ究極システムなんだよぉっ。なんせ、本来だったら、五つの『10兆システム』をマスターした上で『25UGP』を払わなければ解禁できないシークレットシステムだからねっ。ほんと、お兄さん、すごいねぇ、やったねぇっ』



 力がインストールされた瞬間、

 ゴートは、『サイコイヴ‐システム』の全てを理解した。

 脳に情報を叩き込まれる異常。

 初めての経験。

 もちろん、激しい糖分枯渇と吐き気を催したが、

 そんなもんどうでもいいと思うくらい――



(な……ぁ……ま、マジ……か……こんな力が……俺に……?)



 秒で理解が深まっていく。

 コンマ五秒ほどで理解、一秒に届く前に驚愕。

 理解が深まれば深まるほど、


(ち、チートってレベルじゃねぇぞ……ま……マジで……)



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