それでは、ゴート・ラムド・セノワールの神話をはじめよう

それでは、ゴート・ラムド・セノワールの神話をはじめよう





 バロールは、神の意思を理解している気になっている。

 巨悪になれという言葉の裏を読み、

 その上で、その先を目指そうとしている。


 裏など何もないモノの裏、その先。

 そんなものを目指すという事は、つまりは――


「ゆえに、私は、魔王国を使って、この世界に、革命を起こすつもりでいる」


 酒神終理殿下の命令をこなすだけの道具ではなくなった。

 自分でプランを練れる立場を得た。

 ならば、少し踏み込みたい。

 己の軌跡を残したい。

 そして、実績としたい。


 欲望と勘違いによる猪突猛進。

 すなわち――


「もちろん制限は与えるが、少しばかり、当初の予定よりも派手にいく」


 ――混沌となる。

 バロールの、カラ回った誤解とやる気が、

 今後、複雑に絡み合っていき、

 運命がねじまがり、悪意をのみこんで、

 結果、世界は、本物の混沌を迎える羽目になる。


 『変な誤解で妙な事にならないように』――その配慮こそがシューリだったのだが、

 そのシューリは、今、アダムにご執心……



「ほうほう……」



 返事をしながら、ゴートは頭を回していた。


(……『主』……『神』……。それは、すなわち、『ゼノリカ天上――神々の総意』……革命……目的はその先にあるもの……救済……)


 ゴートは、バロールの意思を正しく理解しようとする。

 事前に立てた予測と相違はないか。

 勘違いはないか。


(独善的に、非人道的に……しかし、それが必然となる……宗教組織らしい思想……しかし、確実性があるのも事実……そんな混沌の先にある救済……ゼノリカは秘密結社、なぜ? その解答。――排他的な正義。ゆえに、悪意そのものを殺せる。偶像、管理人、観測者……完全な世界の平定。そのための必要悪。正義と悪の混同。すべては、救済のため……)


 ゴートは、正しくバロールの意思を理解した。


 やはり、勘違いはなかった。

 一致していた。


 言葉だけで『なかよくしましょう』は通じないのが人間社会。

 表層だけではなく、根底から『平和』を『理解』させるハンマーセッション。

 それが、必要悪としての巨悪と、その後の救済。


 俯瞰で見れば、クソしょうもないマッチポンプ。

 だが、世界は救われる。

 世界全体を相手にするのであれば、テーゼは幼稚であるほどに効果が高くなる。


 もし、ラムドがラムド・セノワールのままなら、あるいは、それでうまくいったかもしれない。


 だが、彼はラムドじゃない。

 彼は、ゴート・ラムド・セノワール。


 究極の可能性を背負った『敗北者』。


「沙良想衆はセファイルに潜ませた。他の三つの国にも間者を忍ばせている。世界の調停役を気取っているフーマーは『天』が抑える。今後、魔王国はかなり自由に動けるだろう」



「……なるほど、つまり……導火線になれと」



「その通りだ。ただし、ゼノリカの力は使うな。あくまでも、己の才覚だけで事をなせ。そうであれば秩序は乱れない。あくまでも時勢。それだけのこと」


 武田と上杉が、信長の後押しをするように死んだのと同じように、

 ただ、時代が、ラムドの味方をするだけ。


「しかし、ゼノリカの力を一切使わずとなると……なかなか厳しいものがございますなぁ」


「まわりは固めてやるのだ。それでどうにか出来ないようでは話にならない。常に『天』は、貴様の味方。確実に『理知的な混沌』を実現してみせろ。貴様なら出来るはずだ」


 バロールが、こうも盲目的なほど『ラムドならできるはずだ』と思っている理由はただ一つ。

 神が、ラムドを評価しているから。

 神の判断は常に正しいから。


 神は、ラムドに対し『まあ、召喚キ○ガイだけど、そこそこ頭がイイっぽい現地戦力だから、使いたかったらどうぞ』程度にしか思っていないが、


 ――そんな事、バロールには、知る由もなく……


「貴様には、かなり大きな裁量権を与えてやる。現地での地位は、UV1と対等とする」


「「っ?!」」


「今後、UV1の許可を必要とせずに行動する事を許す。自由にするがいい。UV1、貴様は、ラムドの相談役として動け。よいな」


「……はっ」


 現地限定とはいえ、ラムドごときと地位が対等。

 とうぜん納得など出来ないが、上からの命令は絶対。

 UV1は、気をぬけば歪みそうになる顔を気合いで抑えつけて頭を下げた。


「ラムド、理解できたな? UV1は、貴様の味方だ。しかし、UV1の力を使う事は禁じる」


「あくまでも、私の力だけでやれ……しかし、私の力であれば、なんでもしてよいと」


「そうだ。自由を許可する。もちろん、度をこした不条理に穢(けが)れれば、UV1に粛清させる……しかし、それがゼノリカのためであるならば、大概の事は許す」


「UV1様は、相談役兼お目付け役という訳ですね……なるほど、なるほど」


「まさしく、そういうことだ。私はお前を信用し信頼している。その意味の重さを理解しろ。できたか。ならば、ここからは自由に……かつ……ハデにやれ」


「かしこまりました」



 返事をしながら、

 ゴートは、心の中で、


(最高に、最高が重なった。全て俺の望むままに事が進んでいる……必ず、成功させる。そして、俺も、神になる)


 神になりたい訳ではない。

 ただ、神にならなければ出来ない事がある。


 ――ゴート・ラムド・セノワールの神話が始まる。


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