神を目指すラムド

神を目指すラムド




 ゴートは、


(重要な役目だ。俺は、表だったアンチテーゼでありながら、ゼノリカのハト派とリーンを導かなければいけない……)


 ラムド・セノワールは、ゼノリカのタカ派。

 それは絶対的な立ち位置。

 世界視点での分かりやすい巨悪。


 『倒せば終わりの王将』


 その上で、ジンテーゼへ辿り着くためのかけ橋にならないといけない。

 そのポジションが、魔王国の宰相。

 これから、成りあがっていく国家の頂点『偉大なる魔王リーン・サクリファイス・ゾーン』の、『片腕』にして『愚者』にして『道化師』にして『黒幕』。

 世界の敵として注目を集めながら、ひそかにリーンを導いていく。

 当のリーンにすら気付かせずに、

 リーンからのヘイトをも集めながら……


(……非常に難しいポジション……)



 ――理解に届くと、ゴートは、思わず、ゴクっと息をのんだ。



 その理解は、当然、その先にも届く訳で、


(このミッションを成功に導いた者は神となる。基本的には、UV1と長強と沙良想衆が候補者。だが、全ての中心に、俺はいる。つまり、俺には、権利はなくとも交渉材料ならあるってことだ)


 ただの『かけ橋』――『道具』で終わるか。

 それとも、その先を目指すのか。


 それは、これからの行動しだい。


(使い捨てで終わるつもりはねぇ。これはチャンス)


 可能性はある。

 未来はある。

 いや、創れる。

 どちらも、ゴートの手の中にある。



 ――バロールが、


「己の才覚だけで魔王国を導け。魔王国にはこれから大きな仕事を任せるつもりでいる」


「導け、とは……具体的に、どの程度を御望みでしょう」


「……『どんな方法を使ってもいい』から二位まで持って行け。フーマーを超える必要はない。だが、限りなく近づけ。とにかく、魔王国を、大国にしておくんだ」


 どんな方法を使ってもいいから。

 その言葉に、明らかに力が入っていたのをゴートは聞き逃さなかった。

 そこが、もっとも大事なところ。

 ――酷く強引に主張を貫け。

 ――妥協も協調も必要ない。

 ――強硬に理念を押し通せ。






 ――ハッキリと間違えながら、それでも、怯まずに、前へ進め――






 そこで、ゴート(ラムド)は、あえて、


「最終的な目標をお聞かせいただければ、よりよく事を進められるかと存じますが、いかがですか?」


 『それ』を聞く。

 あえて口にさせる。

 分かってはいる。

 理解はできている。

 ここまで聞けば、バロールが何をしたいと思っているかくらいわかる。

 だが、忖度するだけでは不十分。

 『この先』を目指すのであれば、『ここ』を『明確なフック』にする必要がある。



(バロール猊下……あんたには、俺が、ゼノリカ内部で地位を上げるためのとっかかりになってもらう)



 ラムド――『センエース』の現時点における基本的な『出世欲』は『下の中』がいいところ。

 もちろん、ただのバカではないので、『出世欲は醜い』などと浅はかな事は言わない。

 『出世しなければ出来ない事がある』という現実問題は理解できている。

 ただ、日本の警察で働いていた時、『出世しただけ苦しくなった』という現実に襲われた。

 ゆえに、出世欲は少ない。

 ゴートは思う。


 ――ゼノリカでも、当然、同じことは起こりうるだろう。

 ――上に行けばいくほどしんどくなる。


 当たり前の話。

 だが、『ここ』にいるだけでは出来ない事が確実にあるのだ。

 結果、ゴート・ラムド・セノワール(センエース)は、高みを目指す事に決めた。


 ――その這い上がると決めた覚悟が、この世界に、本物の混沌をもたらす――






 目的を聞かれたバロールは、


「本音で言おう。誇れる実績が欲しい」


 確かな本音を口にした。

 愚直なのではない。

 ラムドを『取るに足らない存在だ』と認識しているがゆえ。

 だからノンキになれる。



「私は、『主』の目指す先を実現したい。主は『絶望の先にある救済』を成すつもりであられる」



 想いを隠す必要すらない相手。

 それがバロールにとってのラムド。

 今のラムドは、バロールにとって、ちょっとした道具でしかない。



「私は、主の望みを完遂し、神に報(むく)いた者となりたい。あえて、幼稚な言葉を使おうか。私は、主から『よくやった』と褒められたいのだ」



 バロールの発言を受けて、ゴートは思った。


(この猿顔、狂信者タイプか……勝手にリアリストタイプかと判断していたが、思いっきり外れたな。まあ、俺は心理分析が得意な訳じゃねぇから、別にいいけど……)


 顔や仕草を見て、だいたいの、タイプ分けをする。

 それは、生きていく上で必須のスキル。

 正解・不正解は、さして重要ではない。

 重要なのは、正解や不正解を積んでいく事。

 その数と質が、その人間の器になる。


(いもしない神に褒められたいと願う、その気持ち。俺には分からない。だが、分からなくても問題はない)


 ゴートは思う。


(バロールの目的は理解できた。まずは、それに沿ってプランをたてる)


 すり寄るつもりはない。

 だが、まずは、『使える』という評価をもらう所からはじめるしかない。

 今のラムドは、それだけ低い所にいる。

 ここから這い上がるためには、目の前にあるチャンスを全力でモノにしないといけない。





(必ず成功させる。そして、俺も、この猿顔と同じポジション……神を目指す)


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