女のプライド

女のプライド




 逆に、センから頼まれれば、

 実際のところ、シューリは、それがどんな困難な願いであれ、

 きっと『しょうがないでちゅねぇ』となんでも叶えてしまうだろう。


 事実、シューリは、センの『ゼノリカをどうにかしてほしい』という願いを叶えている。

 こんなこと、本来ならばありえない。

 シューリのプライドの高さは異常。

 本来ならば、どれだけ頼まれようが、現世のカス共の子守りなど、絶対にやるはずがない。

 『シューリにゼノリカを任せる』というのは、『ベジ○タにベビーシッターをやらせている』ようなもの。

 もし、セン以外の者がソレを願ったら、『ナメてんでちゅか?』と本気でブチギレで、そのクソみたいな願いをしてきたバカを瞬殺するだろう。

 だが、それがセンからの願いであれば、必死になって叶える。

 どれだけやりたくない事でも、それがセンの願いなら、シューリは必ず叶える。

 仮にシューリでは不可能な難事だったとしても、血ヘドを吐きながら死ぬ気で努力して、実行してみせようとするだろう。

 だが、自分からセンに『~~してほしい』は絶対に言えない。


 そんなみっともないマネは、プライドがゆるさない。




 ――しかし、アダムにそんなプライドはない。




 アダムならセンに余裕で言える。

 嬉々としておねだりできる。

 一ミリたりとも、それを恥だとは思わず、

 むしろ誇らしげに、全力で、センにおねだりができる。


(あたしから頼むというのはありえない……だが、アダムが勝手に望むのであれば、あとは受け入れるだけでいい)


 もし、アダムが、

 『自分とシューリにプロポーズをしてほしい』

 と願えば、それで完璧。


 あとは、自分が『アダムという存在を認める』か否か。

 問題はそれだけとなる。


 誰でもいいわけではない。

 認めている存在が、センに願うから成立しうるのだ。


 シューリは考える。

 アダムを認めるという選択肢がアリかナシか。


 もちろん、『イヤだ』という想いはある。

 ゴリゴリの独占欲が、全力で首を振っている。

 だが、

 シューリの中に在る『欲』は独占欲だけではないのだ。

 単純に、



(そこらのメスブタなら許せないが……アダムならば……)



 ジっと、アダムを観察してみる。

 頭に血がのぼっていて、ちゃんと見ていなかったが、


(美しい……)


 女だからといって、『女の美しさ』に何も感じないわけではない。

 というか、

 実は、

 じゃっかん、そっちの気があるシューリにとっては、


(好みか好みでないかで言えば……間違いなく……)


 そういう目で見て見れば、

 なんとそそる女だろうか。


 豊満な胸も、長い手足も、

 若干、幼さが残る顔つきも、何もかも、

 すべてが、


(……欲しいか、欲しくないかで言えば……)


 答えを出すまでもなかった。

 アダムは美しい。


 そして、才能もある。


 別に、『教え厨』という訳ではないが、しかし、やはり、アダムの才能は惹かれるものがある。

 鍛えてみたいと思う。

 その点に、少し意識を向けてみるだけで、磨きたいという感情がムクムクとわいてきた。


 誰にだってある。

 『極めてしまった世界』を持つ者であれば、新参者に、『教えたい』という欲。



 ――そんな当たり前の感情が、シューリの中にもある。



 考えてみれば、考えてみるほど、

 アダムは、シューリの『欲』を刺激していた。


 シューリにとって、アダムは、『後輩』として完璧。

 自分に羨望の眼差しを向けてくる、才能あふれた美少女。

 それが、最高のプラスアルファ(センに命令できる権利)まで背負っている。




 ――そこで、




「私は……貴様が憎い……それだけならば、まだ良かった……だが……」



 アダムが、ポロっと涙をこぼした。


 重たい悔しさと滲ませて、

 アダムは口を開く。


 アダムにだってプライドはある。

 シューリと同じものではないが、アダムにも、譲れないものが確かにあった。

 そして、今だって、それの守り方を忘れたわけじゃない。


 ――そのことを、シューリはようやく理解する。


 アダムは、



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