神帝陛下を待ちながら

神帝陛下を待ちながら




 『みっともない』と言われたバロールは、

 顔を赤く染め、

 その暴言をつきつけてきた、『いかつい顔の女』を睨み、


「大責ある立場だからこそ、重荷を感じるのだ。自我なき虫であれば、この場にいても、何も感じまい!」


 つい、大声で叫んでしまった。



 それを耳にしたミシャが、少しだけ不快気に、


「バロール。緊張のせいだとは思うけれど、声が大きすぎるわ。ここをどこだと思っているの?」


 ボソっとそう言った。

 『緊張は抑えろ』と言う。

 しかし、『礼儀は尽くせ』とも言う。

 どれも当たり前の話だが、どれも難しい。


「……っ! も、もうしわけございません」


 あまりの失態に、バロールの顔がまた青くなる。


 第6アルファという超最高位世界における『星典魔皇(せいてんまこう)』という『殿堂入り』した最高位の立場にある男でありながら、今、この時ばかりは、『戦場に初めてたつ一兵卒』のようにプルプルと震えながら、顔を青白くさせている。

 『現地』においては、『星に愛された魔の神』などと崇められている偉大なる『神族の一柱』だが、この場においては、産まれたての子ヤギのようになってしまう。

 若干猿顔で、全体的にかなり毛深い、大柄の偉丈夫。

 ――ゼノリカの天上、九華十傑の第6席『ブナッティ・バロール』



 隣に立っている女『テリーヌ』は、第8アルファで、バロールと同等ランクの地位に立っている女神。『武の神』とあがめられている、数え切れない弟子兼信者を持つ武道の達人。

 そんな彼女だが、『バロールが異常に緊張してくれているおかげで、まだ平静を保っているように見えている』だけで、実は内心、吐きそうなほど緊張していた。

 ぶっちゃけゴリラ顔(間違いなく美人なのだが、やはりいかつい)で、背が高く、アクアグリーンのマーメイドドレスが抜群に似合っている二十代後半ほどの女性。

 ゼノリカの天上、九華十傑の第8席『ロックロック・テリーヌ』



 テリーヌは思う。


(まあ、『緊張するな』というのが無理な話……しかし、失態は絶対に許されない……これから御尊顔を拝する事が叶う御方は、神々の神。世界の果て、その具現。……我らの指導者『ミシャンド/ラ邪幻(じゃげん)至天帝陛下』の主。『雲の上に座する神々』が見上げる『宙(そら)の上』、その『最頂点』に御座す、『神を含めた、あらゆる全て』を超越せし偉大なる御方……)



 本来ならば、『九華』程度が、主の威光に触れられる機会を賜るなど、絶対にありえない。



 ミシャンド/ラですら――複数の最上位アルファの頂点、全世界で三名しかない『至天帝』の一人であるミシャンド/ラ邪幻至天帝ですら、『神帝陛下』にお会い出来る機会には滅多に恵まれない。






 ――『一つの世界の頂点に立つ存在』を『天帝』と呼ぶ。

 『神になれる可能性』を持つ超位の存在。

 そんな天帝の中でも、特に際立った存在がいる。無数の条件をクリアし、多くの神々に認められる事でようやく至れる超々高位の地位。

 それが、『至天帝』

 現状、三名しか存在しない至高の地位。


 『ミシャンド/ラ』は、その一人(人間ではないが)。


 第6、第7、第8、第9アルファを統べる至天帝。

 その世界で最も尊き『天帝』――その上に立つ者。

 現世における、究極の個。

 属性が『神ではない』というだけで、神よりも高みにある存在。

 事実、『現世で闘う』という条件であれば、

 ミシャンド/ラより強い神などそうそういない。


 『ゾメガ・オルゴレアム剛魔至天帝』と、

 『平熱マン聖剣至天帝』も同じで、


 圧倒的な力を持つ、神以上の個。

 神ですらそうそう抗えぬ、偉大なる超越者たち。






 そんな『三名の至天帝』を統べる『究極超神の序列一位』


 ――それこそが『神帝陛下』


 全ての神を支配する神。

 『ゼノリカの最高支配者』






 ――現世から隔離された『空の上』には、『神』と呼ばれる『高次生命』が存在する『神の世界』がある。

 そんな『神』を束ねているのが『超神』と呼ばれる、さらに高次の存在。

 超高次生命である『神』の中でも、飛びぬけて優れた『器』を持つ、真なる超越者だけが辿りつける領域。

 それが『超神』。


 そんな『超神』をも超えてしまった存在が『究極超神』。


 もはや、高みに至りすぎていて、

 下界(現世)の者では、何が何だか分からない超々々高次存在。



 そんな『究極超神』の序列一位。



 神々の中でも、唯一の、『真なる究極超神』という無二の称号を持つ、果ての果てに御座す御方。




 それこそが、



 神界の深層を統べる暴君にして、

 運命を調律する神威の桜華。


 ――舞い散る閃光センエース――




 ありとあらゆる全ての頂点に立つ偉大なる神の神。

 存在の次元があまりにも違いすぎる、この上なく尊い耀き。








(まさか、主にお会い出来る日がくるとは……夢にも思っていなかった……というか、本当に私ごときが会えるのか? この状況……夢に見る事すらおこがましい『不相応極まる妄想』としか思えないのだが……)


 テリーヌは、心の中でボソっとそうつぶやいて、小さく首をかしげた。


 隣にいるバロールも同じ。


(いやいや……神帝陛下は……我らごときが会えていい存在ではないだろうに。本当に、なんだ、この状況……というか、どうして、こんなことになった……うっ……また吐き気が……)






 繰り返すようだが、『バロールとテリーヌ』も、

 それぞれの世界では『最果て』に在る存在。


 もし『バロールに会える』となれば、『各国家の主席』レベルであっても、みな例外なく『私ごときがバロール猊下にお会いできる僥倖を賜るなどありえん』とゲロを吐くだろう。

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