アリと恐竜

アリと恐竜




 突撃し、拳を振るおうとした直前、


「……なんだ、『全力で動かしている時間』で十七秒か……」


 ピタっと停止してみると、視界に表示されている『いくつかのメーター』――その中の一つ、稼働時間を示す計器の動きが、かなりゆっくりになった。


 システム解禁されてからというもの、ずっと、頭の中に、説明書が送り込まれてくる。

 神からもらった穴だらけの情報とは違い、虫に食われたような部分は全くなかった。


「まったく動かなければ、もっと長く、このまま……いや、それでも、五分が限界か……全力で動くと合計17秒で停止……でも、改造する事で、その時間も延ばせると」


 改造率は、どれだけ、このシステムに力を注いだかを示す証。

 それが現在0%。


 つまり、今が底値。

 全ての値が、最も弱い状態。




「これでも一番弱い状態? ……えぐいな……ていうか、なんだ、このイカれた数字は……攻撃力、190億? ……こんなもん、歩くだけで星とか砕けるんじゃねぇか?」




 自分の異常な力について、頭の中を探ってみると、


「……大きすぎる力は、コスモゾーンの法則に従ってコンパクト化され、常時、範囲が狭くなり、かつエネルギーの指向性が限りなく局所的かつ限定的になるため、過剰な破壊は起こらない……か。世界ってのは、良くできてんのね」


 ゼンが、己の力を確認していると、






「ぁ……ぁ……」






 ガチガチと歯を震わせているホルスドが、


「なんだ……それ……どういう……ありえない……動きがまったく見え……というか、そんな力……アロリリアが、一撃で爆散するなど……あんな破壊……ありえない……」



 無様に、ワナワナと震えていた。

 サードアイごときでは見通せないため、目の前にいるバケモノがどれだけ狂っているのか、ホルスドではデジタルに理解する事ができない。


 しかし、爆裂したアロリリアの最後を見れば、『ケタが違う』という事くらいは分かる。


「こ、こんな……」


 完全な思考停止状態に陥っているホルスドを見て、ゼンは、




「ちょうどいいから、実験させてもらうぞ。お前相手だったら、いくらでも残酷になれる」




 そう呟くと、全力で、『自分』を制御しつつ、超高速で距離をゼロにして、右腕でホルスドの右肩を掴む。


(この肩を掴んでいるだけの状態。ホルスドの筋力がゴミみたいなもんだから、ほとんどエネルギーを使わずに済んでいる……とはいえ、何もしていない時と比べれば、当然、減りは多いか)


 思案しながら、左腕で、ホルスドの右腕を引っこ抜いた。


 力をこめすぎないよう、ソーっと、しかし、コンマ一秒を切る速度で――



「どぅぁあああああああああああああああああああ!!!」



 噴き出した鮮血。

 激痛に濡れた顔。


 ゼンは、そんなホルスドの顔に愉悦はまったく覚えず、ただただ純粋に、


「アスラ・エグゾギア‐システムのコントロール……出来るには出来るけど……これ、すげぇ神経使うな……練習が必要だ。つっても、動かせる時間は数秒……で、限界がくると、俺、気絶しちまうのか……この力、凄まじいけど、かなり無茶な制限も多々ある……これから先、ちょっと……色々と考えねぇとな……」


 ゼンが『先』を思案している間、


「いぃぃぃ……ぐぅ……」


 ホルスドは、激痛に耐えながら、




「謝罪……するぅ……」




 絞り出したような声で、


「全面的に謝罪する! 主を裏切って、貴様についても構わない! だから許せぇ! 殺すなぁ! 死にたくないぃいいい!」


「……」


「私を配下にできるのだ! これ以上の栄誉はあるまい! だから、許せぇ! 離せぇえええええ!」


「……お前、頭、大丈夫か? 最初から思っていたんだが、お前、情緒とか、考え方とか、いろいろおかしくね?」






「だまれぇえ! いいから、離せぇええ! 痛い、痛い、痛いぃいい! 私を誰だと思っている! 私は五神の一柱! ホルスド・ガオン! 尊き天使の第三位ぃいいい!」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る