だって、バカだから

だって、バカだから





(……ホルスドの種族……『セラク・r・レヴィガシー』という種族名がどういうもんなのか、イマイチよくわからなかったが……まあ、きっと、『なんらか』の『神』を示す『なんかしら』だろう)


 きっと? いや、『間違いなくそうだ』と、経験が教えてくれた。


 これほどの強さを持つ者が神じゃなかったら、その方がおかしい。



(俺は今、神と闘っている……はは……)



 この時、ゼンは、ふと、こんな事を思った。




(タナカトウシ……お前には永遠に出来ないことだろう? ……はは)




 こんな時に思い出す顔が、まともに会話をしたこともない相手。

 その事実が、心底おかしくて、ゼンは笑った


 タナカトウシ。


 『属性』は確実に同じなのに、

 『性質』はかぶっているのに、

 『本質』は似通っているのに、


 けれど、届かなかった相手。

 うまれて初めて、『負けた』と認識させられた相手。


 もちろん、それまでだって、『何かに負けた経験』はやまほどある。

 問題なのは、その『敗北』の質と程度と重さ。


 ――ヤツは、胸をかきむしりたくなるほどの『本当の敗北』を刻んできた敵――


 まったく同属性の、『ガリ勉系、異常性格、陰キャボッチ糞野郎』のくせに、

 涼しい顔をして、遥か遠くを歩く、いけすかない敵。



 『この感情』が、酷く『一方的』なものでしかないというのが、なにより腹立たしい。



 ――きっと、お前は、もう、俺の名前どころか、存在すら忘れているだろう――

 ――それだけの頭がありながら、俺の顔すら――



 しょうもない、ガキの感傷。

 中学生らしいと言われればそれまでの、しょっぱい絶望。


 ――けれど、


(俺は、お前に、何一つ敵わなかったが……経験という一点だけで言えば、俺はお前を超えた!)


 心の中で、そう叫ぶと同時に、



「ははははは! クッソしょうもなっ……だからなんだっつーの!!」



 そう、口でも叫んで、ゼンは、全力で飛びあがり、ホルスドの頭頂部めがけて、



「うおぉおおおおお!!」



 思いっきり剣を振り下ろしてみた。


 しかし、結果はもちろん、




「はっ……しかし、酷いな。これの相手をしているかと思うと、少し泣けてきた」




 ギィンと硬質な音がした、それだけ。


 ホルスドは、つまらなそうな目で、


「で? まだ何かやりたいか?」


 ゼンにそう問いかけた。


 別に、本気で聞いている訳ではない。

 ただ、軽く煽っているだけ。


(……ははっ……クソ野郎が……ほんと、超強ぇなぁ……いや、硬さを感じただけで、強いかどうかすら分からなかった……それほどの……遠い、遠い、遠い次元……はは……はっ)


 ゼンの体から、フっと力が抜けた。

 呆れとか、虚しさとか、そういう色々な感情がまぜこぜになった『弱い自嘲』だけが、頭の中でこだまする。



 反射的に距離をとる。

 後ずさりで、五メートルほど離れてから、



「ホルスド……あんたさぁ……電気が弱点だったりとか……する?」


 ゼンの、何の期待もしていない問いを受けて、


「くくく……」


 ホルスドは、おかしそうに笑って、


「ああ、大の苦手だ。私はかつて、『大いなる主』の『神雷』を受けた事があるのだが、たった二発受けただけで、その後、数時間ほど動けなくなった。世界を割るほどの聖なるイカズチだったとはいえ、たった二発で……酷く恥ずかしかった……が、まあ、おかげで、少しは耐性がついたがな。で、それがどうした?」


 ゼンは、つい、渋い顔をしてしまい、反射的に目を閉じて、グっと天を仰いだ。


(雷術のランク1ごときじゃあ、当然、話にならねぇ、か……ったく)



 息を吐く。

 深い溜息。


 空に溶けて、壊れていく。


(俺の全部が通じない。何もできない……ステータス差は数十倍で、せっかく覚えた魔法もまったく無意味……おまけに、本気で闘ってすらもらえない……ここから、後、もうちょこっとだけなぶられて、死ぬだけ……なんだ、この異世界転移……酷過ぎるだろ……はっ、くっそバカバカしい……)



 ゼンは、




「やっぱ出てくんじゃなかった。逃げればよかった。すげぇ、時間を巻き戻したい」




 そうつぶやきながら、


「まあ、でも……んな事言いながら……」


 しかし、まっすぐに前を見ながら、









「もし、時間が戻ってたとしても……きっと、俺は同じ事をするんだろうな」

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