ラムド、俺はお前を尊敬するね

ラムド、俺はお前を尊敬するね





 ラムドは、引き千切った自分の右腕を目の前に放り投げた。

 千切れた腕は、地面に落ちると同時、そこに紫のジオメトリを描く。


(腕を媒体にした? ぃや、違うな……そうじゃねぇ。ラムドの存在値が一気に下がったところを見るに、腕はただの依代。右腕に、生命力の大半を込めて、『贄(にえ)』にした)


 勇者のサードアイでは、具体的に、どれだけ下がったかは分からない。


 なんとなくはわかるが、そこまで。


 対象の存在値がデジタルに理解できるようになるのは、セブンスアイから。



(狂気の沙汰だが……まあ、俺が相手だ。そのぐらいしねぇとなぁ)



 勇者は、ラムドの狂気を称賛し、受け入れた。

 召喚術に詳しいわけではないが、決して無知ではない。


 何をしようとしているのか、それを察するぐらいのことはできる。



(理論上最高の召喚か……介入して邪魔するべきなんだろうが……見てみたいと駄々をこねる自分が、どこかで、確かにいる……くく……まあいいさ、寛大な心を以ってあがきを許し、嘲笑を以って捩じ伏せる。それでこそ、俺だろ? なぁ、勇者ハルス)






「くるがいい、スリーピース・カースソルジャー」






 禍々しいジオメトリから、『ソレ』は這い上がってきた。

 紫に染まる呪われた鎧を纏いし屈強な魔人。


 左手に携えている『死色に染まった魔剣』が怪しく輝く。








「……感嘆するぜ……心からなぁ」








 勇者は微笑んだ。

 喝采したい気分だった。


「すげぇよ……ラムド。俺はお前を尊敬するね」


 勇者はそう言うと、腰の鞘に、双剣を戻す。


 そして、右手を前に差し出し、



「活躍のチャンスが、ようやく来たな。お待ちかねの、出番だぜ……サテライト・エクスカリバー二式」



 宣言した瞬間、勇者を囲むように、二つの聖剣が召喚される。

 勇者を守るように浮遊する聖剣は、念じるだけで自在に操れるオールレンジ兵器。



「俺は強すぎた。あまりにも。……五歳を過ぎてからは、本気で闘ったことなんて一度もねぇ」



 勇者は五歳の時、超難関の『冒険者試験』を歴代最高の成績で合格してからというもの、敗北を経験したことがない。


 幼少期はさすがに、幾度か、指南役や歴戦の冒険者相手に敗北を喫したことがある。


 しかし、冒険者試験という難関を乗り越えたことで、勇者は己の壁を破壊した。

 以降の勇者は敗北を知らない。


 もっと言えば、誰も、勇者の敵にはなれなかった。



「飢えていたよ、お前のような『敵』に……」



 勇者は嗤う。

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