ついに、ラムド、動く

ついに、ラムド、動く



 剣戟は終わった。

 ドラマチックな戦闘なんて無かった。


 ただ、順当に、魔王が負けただけ。



「……まだ、生きているか?」


「がはっ……ごほっ……くはっ……はぁ、はぁ……」


「……『理離守(りりす)』か、いいスキルだな。殺しきらない限り、どんな状態になろうと回復し続けるオーラの自動展開。だが、さすがに、しばらくは立てないだろう?」


「はぁ……はぁ……」


「俺を肯定しろ、魔王。そして、自分を否定しな。自分自身で、てめぇの存在価値を殺せ」


「ワシは、絶対に……ワシを否定しない」


「だろうな」


「けど、肯定はしてやる……見事な強さだ、勇者」






「…………………強さの肯定なんざ、いらねぇんだが……まあ、いいや」






 一度、薄く笑って、


「じゃあな、魔王。あの世で見てな、テメェが必死になって守ろうとしたもんが、ただの地獄になって穢れていく様を」


 勇者が、トドメの一撃を放とうとした、その時、

 完全に、見計らったタイミングで、



「ふむ、なかなか面白い勇者じゃのう」



 ラムドが前に出てきた。


 黒きローブを纏ったリッチは、くつくつと笑う。


「バカ王子、クズ勇者……他国の王族だけではなく、家族や自国の諸侯からも、裏では、散々陰口をたたかれている、生粋のDQN。……しかし、どうやら、それなりには、自分の哲学を持っているらしい。……哲学を持っているからなんなんだ、という話は、この際、置いておこう。話が進まんからのう」


「おいおい、この闘いは、そちら側の王から申し込まれた、正式な一騎打ちだぜ。いくらピンチになったからって、アッサリと約束を破って臣下が介入するってのは……ちぃとばかし、いただけねぇなぁ」


「知らんよ、その言が交わされた場にいたわけでもないし……なにより、わしは、そういう一切合切を、どうでもいいと思うタチじゃからのう」


「ああ、知ってるよ。俺だって、別に、本気で邪魔すんなって言ってんじゃねぇ。頭が死にそうになってんだから、抵抗して当然だ。てか、他の連中はなんで動かねぇんだって、現在進行形で思っているわけだが……まあ、んなことだって、瑣末も瑣末」


 勇者は双剣を構えなおし、


「聞きたかったんだが、サリエリが全快してんのは、テメェがなんかしたせいか?」


「変わったことに興味を持つ輩じゃのう。それ、今、重要か?」


「くく……違いねぇ。あれだけの損壊をどうにかできる『何か』は確かに脅威だが、それほどの『何か』なら、どうせ『複数回使用』はできねぇだろうし、仮に、まだ何回か使えたとしても、端から全部、壊しちまえば良いだけの話……単純だぜ」


 無詠唱のバフをかけなおす。

 勇者は、ラムドから一瞬たりとも視線を外さない。


 油断はありえない。


 勇者は、ラムドを知っている。

 というより、魔王国が台頭してからというもの、

 ラムドの名を知らぬ者の方が少なくなった。


 頭脳と能力。

 高い次元でその二つを兼ね備えた者の鬱陶しさが分からないほど、勇者はバカじゃない。

 バカはバカでも、ただのバカではないのだ。


(ランク5……いや、ランク6か? 召喚士に回復魔法は使えねぇ。つまり、ラムドがサリエリに使用したのは、ランク6の回復魔法が込められた魔道具。……シャレになんねぇもんを持っているじゃねぇか……噂を聞いたことすらねぇ超級アイテムだが、こいつなら用意できるかもしれねぇと思っちまう。くく……畏怖に値するぜ。てめぇの存在、てめぇの力)



 勇者は、腰を落とす。

 左手を前に出して、右手は下げる。



「正直に言おう。そこに転がっている脳筋魔王は、俺にとって、まったく脅威足りえねぇ。が、てめぇは違う……光栄に思ってくれよ。俺がここまで評価する相手はこの世でテメェだけだ。つっても、俺が勝てない相手ってわけじゃねぇ。俺を害せる可能性がコンマ1パー残ってんのが、この世でテメェだけっていう、つまりは、俺の異常性を自慢しているだけさ。……さぁて、んーじゃーまー、行こうか。俺の全身全霊をもって……テメェの全部を殺してやるよ」


「ひゃひゃひゃ、まあ、待て待て」


「あん? なんだ? まさか、命乞いってわけじゃねぇよな? その心配はないと思うが、一応、最初にハッキリと言っておくぜ。俺の上には誰もいねぇが、それは下も変わらねぇ。俺は、最後まで孤高に生きて、孤高に死ぬ」


「いい覚悟じゃのう。嫌いじゃないぞ」


「で、なんだ? 何をまつ? ただの時間稼ぎなら、失望の念を禁じえねぇぜ」


「ようやく完成したんじゃ。一緒に楽しもうじゃないか」


「……?」


「刮目(かつもく)を許そう、勇者。そして、瞠目するがいい、これこそが、理論上最高の召喚術式じゃ」


 言って、ラムドは、


 自分の右腕を引き千切った。


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