最初の転生。
最初の転生。
目覚めた時、
彼――センエースは、違う世界で赤子になっていた。
オギャアと生まれた瞬間、彼は意識をもっていた。
自分が、かつて日本で高校生をしていたセンエースという名の男であると完全に理解したまま、母の手に抱かれて泣いていた。
生後反射で泣くしかない――そんな中で、
彼は思った。
(記憶もったままの転生! きたこれ! ひゃっほい! 願わくば、ここが地球ではなく、魔法とかが使える異世界でありますように!)
――何を隠そう、彼は頭がおかしかった。
異世界系のWEB小説を死ぬほど読みこんでおり、
『異世界転生した主人公たち』に『死ぬほど嫉妬』していた彼にとって、
この状況は願ったりかなったりだった。
困惑したり、焦ったり、元の世界に帰りたいと思うことなどは皆無。
彼は、心底、転生したことを喜んでいた。
そして、この世界は、彼が願った通り、
剣と魔法のファンタジー異世界だった。
モンスターが存在し、文明はそこそこ、
――理想的な異世界。
センは、元気にスクスク育ち、
あらかた『一人で出来るもん』な年になると、
身支度を整えて、
「さあ、レベル上げにレッツゴー!」
「こらこらこら、セン! どこに行こうとしている!」
「決まっている。西の森でモンスターを狩って、レベルを上げるのだ! わかったら、さあ、ソールさん、そこをどきたまえ」
「3歳の幼児が何いってんだ、あと父親を『さん付け』で呼ぶのはやめなさい」
「成せばなる。俺にはできる。おそらくは」
「……まったく、元気があるのはいいんだが、さすがに、冒険者のまねごとをするのは、もう少し大きくなってからにしなさい」
「……くだらない線引きだ。ソールさん、あなたは俺の可能性をわかっていない。俺はきっと、ビッグになる男だ。何がどうとは言えんけど、そんな予感がビンビンする」
「何がどうとは言えないなら、おとなしく家で遊んでいなさい」
「……ちっ……過保護め……」
「3歳で家を飛び出そうとする息子を止めるのは、ただの親の義務だ! お前は確かに、早熟で、頭がいい。しかし、さすがに、3歳で世界に挑もうとするのは早すぎる! この町の外には、強大な龍とかもいるんだ!」
「別に、いきなり龍に挑もうなんて思ってませんよ。俺は、とりあえずレベル上げがしたいだけで――」
「いいから、もう少し大きくなるまでは、おとなしくしていなさい!」
その後、センは何度か脱走を企てたが、
ソールさんは、なかなか目ざとく、
センは、いつも、家の敷地内から一歩も出ることなく捕まってしまった。
(あのオッサン、やべぇな。いつもはノホホンとしているくせに、俺が脱走をくわだてた時だけ、全然スキがねぇ……こりゃ、抜け出すのは不可能だな……くそ、俺はレベルを上げたいだけなのに……)
ちなみに、センが生まれた村では、『自分の名前は自分で決める』というのが慣例になっている。
最低限の自我が芽生えるまでは『~~さん家のジュニア』と呼ばれ、
ある程度、しゃべったりできるようになると『最初の名前』を自分につける。
その後、10歳の時に、一度『名前を変える機会』を得て、
二十歳の時に、最終の名前を決める機会をえる。
そして『二十歳の時に決めた名前』が最後まで自分の名前となる。
「さあ、レベル上げにレッツゴー!」
六歳になって、町の武器屋で『キノキの棒』という記念すべき最初の武器を購入したセンは、勢いよく、家を飛び出そうとして、
「まてまてまてまて」
またもや、父親にとめられた。
――センは『学習しないオッサンだ』などと思いながら、
心底ウザそうな顔で、
「ソールさん、いい加減にしてくださいよ。俺はもう止まれないんですよ。この情動を昇華するためには、モンスターを倒してレベルを上げて世界最強になるしかないんですよ」
「もう、お前を止めるつもりはない。冒険者になりたいならなればいい。しかし、なんの準備もせずに『ただ飛び出していく』だけのお前を黙ってみていることは流石にできない」
「ソールさん、俺はそろそろ21歳の大人ですよ。自分のケツは自分で拭きます。それに、みてくださいよ。この輝くような武器を! 大枚はたいて買った至高の一品!」
「……『ちょっと硬い木の棒』だけ持って家を飛び出そうとする息子を止めるのは親の義務だ。ここは絶対にゆずれない。あとお前は6歳だ。15もサバを読むんじゃない」
「こまけぇこたぁいいんだよ」
「とにかく、少し待ちなさい」
そこで、ソールさんは、アイテムボックス(亜空間倉庫)から、一枚の紙を取り出して、
「これをもっていきなさい」
「なんすか、これ」
「我が家に代々伝わる魔法の地図だ。私は役所で働いていたから、必要なかったが、冒険者を目指すお前にとっては『大きな助け』になってくれるだろう」
(冒険者になりたいんじゃなく、俺はレベルを上げて強くなりたいだけなんだよなぁ……まあ、別に、理解してほしいとは思っていないから、訂正とかはしないけど)
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