VSスライム。

VSスライム。


「我が家に代々伝わる魔法の地図だ。私は役所で働いていたから、必要なかったが、冒険者を目指すお前にとっては『大きな助け』になってくれるだろう」


「へー、あざーす」


「気をつけろよ、セン。無理はするな」


「OKでーす」


 そんなノリで家を飛び出したセン。


 さっそく魔法の地図を確認してみると、


(なにが魔法の地図だ。単なる『西の森の地図』じゃねぇか……)


 その地図には、一か所だけバツ印が書かれてあったが、

 それ以外にはなんの変哲もないただの地図。


(……ま、とりあえず、いってみるか)



 バツ印で示された場所で待っていたのは、

 『大量にスライムが湧く稼ぎポイント』だった。




「こいつぁいい! さんきゅー、ソールさん! あんたの家に生まれてよかった! 『親の過保護で強くなる』ってのはどうかと思うところもなくはないが、利用できるものは何でも利用するのが俺の信条!!」




 センは『神様からチートをもらったり』はしなかったが『レベルを上げる才能』だけはあったらしく、スライムを狩り続けるだけで、レベルはどんどん上がっていった。



 それからというもの、

 一日1000匹、

 毎日、毎日狩り続けて、



 ――『10年』経った頃には、

   『レベル50』になっていた。



 家を飛び出すまでは焦っていたセンだったが、

 家を飛び出してからのセンは、慎重に事を運んでいった。


(まずはレベル上げだ。町の外には、強大な力を持った龍とかもいるらしいからな。やべぇモンスターとも渡り合える力を得るためにも、ここで出来るだけスライムを狩っておく)


 毎日、毎日、

 飽きる事なく、

 センはスライムを倒し続けた。


 周辺には『水場』と『大量の実がなる木』と『雨風をしのげるちょうどいいサイズの洞窟』があったので、町に帰ることもなく、ただひたすらに、毎日、毎日、スライムを狩っては洞窟で寝て、スライムを狩っては洞窟で寝て、を延々に繰り返した。


 もちろん、毎日『同じ倒し方』をしていたわけではない。

 自分なりの技を作ってみたりもした。


「閃拳!!」


 自分の名前をつけた必殺技『閃拳』は、

 ぶっちゃけ、ただの正拳突きだが、

 何万回と繰り返したことにより、その熟練度は、かなり磨き抜かれており、

 なにより、


「いやぁ……恥ずかしいねぇ! まわりに誰もいないってのに、すでに十分、恥ずかしいねぇ。『自分の名前』を『技』につけるって……この痛さは、相当ヤバいねぇ。俺、外に出たら、人前でこの技使うことになるんだよな……うわぁ……想像するだけで引くわぁ……」


 自分の名前をつけて、

 かつ『その名前を叫ばないと使えない』という覚悟が込められた閃拳は、

 何もせずにただ殴る拳の三倍以上の威力があった。


 覚悟のアリア・ギアス。

 それは、この世界のシステムの一つ。

 簡単に言えば、

 ――『~~をする』かわりに『~~という恩恵をえる』――

 というシステム。


 閃拳の場合は、

 『自分の名前がついている恥ずかしい必殺技名を叫ぶ』かわりに『威力が高くなる』。



(アリア・ギアスってシステムは便利だけど、下手に『難しい条件』を積みすぎると、ガチの命のやり合いになった時、身動きが取れなくなってやばいな……俺の閃拳の場合、叫ぶことが条件だから、口をふさがれたら使えなくなるし……最善のアリア・ギアスを追求していかないと……いやぁ……でも、そういうアレコレを考えるのは楽しいねぇ)


 毎日、毎日、

 スライムを狩り続けたセンだったが、

 毎日、毎日、

 脳死で作業を繰り返してきたわけではない(そういう側面がなかったとは言わないが)。


 必死に考えながら、

 自分という個を磨き続けた。


 一日中、誰とも会わず、

 ひたすらに毎日、毎日、スライムを狩るだけの生活。


 普通の人間なら頭がおかしくなるだろうが、

 孤独を愛する彼にとっては、大した問題ではなかった。


 もちろん、寂しいという感情がないわけではないので、

 時折、


(俺の人生、ヤベぇなぁ……大丈夫か? 大丈夫じゃねぇわなぁ、もちろん)


 と不安に思うこともあったが、

 しかし、そんな不安も、一晩寝れば消えてしまった。


「閃拳!」


 そして、今日も、彼はスライムに正拳突きを叩き込む。

 恥ずかしい必殺技名を叫びながら。

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