第3話 男と少女の出会い
目を覚ますと、何故か子供が此方の顔を覗き込んでいた。
子供の頭には包帯が撒かれている。
「どうした?」
一先ず聞いて見る。
「おはよう」
子供がそんな挨拶を返して来る、そうか朝か・・・
「おはよう」
一先ず挨拶を返す、反応が有って嬉しいのか、子供が無邪気な笑みを浮かべる。
「入院してるの」
「其れは大変だな」
其れは見ればわかるが、子供はそんなもんだと納得して当たり障りなく返事を返す。
「あ、こんな所に、ほら、大人しく寝てなさい」
白い衣装の女医が子供を見つけてそんな事を騒ぐ。
「退屈なんだもん」
子供が不満そうに膨れる。
白衣の胸元に赤い蛇の刺繍がされているのは医者の印だ、緑の蛇は助手だったはずだからアレは医者と言う事か、前に見た時には暗くて其処まで分らなかったな。
瞬時にそんな事を考えつつ。
その膨らんだ子供の顔を見るとほのぼのとした気分に成る。
「そんなわがまま言わないで、迎え来る迄は大人しくしてなさい」
そう言って、部屋から連れ出そうとする。
「良いですよ、どうせ暇なんだ、子供の一人ぐらい相手する位、気楽なもんだ」
実際、この程度の子供のやかましさなど、酒場に居る暴れる酔っ払いの類と比べれば。実害が無い分微笑ましい。
酔っぱらったあいつ等だと、口喧嘩から暴れた挙句に刃物が出て来ても良くある事で済ますのだ。
怪我人所か死人が出ても可笑しく無いし、実際出て居るのだ。
騒がしく駆け回る子供程度、実害は無いので微笑ましいだけだ。
「じゃあ、すいません、お願いします。」
少し申し訳無さそうに医者は部屋の外に出て行った。
ほどなく、子供用の寝台が此方に移動した。
「ぶう」
子供が膨れて居る。
「どうした坊主? 退屈か?」
医者から借りた本「生き残るサバイバル」を読みつつ、子供に話しかける。
「うん・・・」
「なら、兄ちゃんが色々話してやろう」
自分の提案に子供が目を輝かせる。
「うん! してして!」
あっさりと釣れた、よっぽど退屈だったらしい。
正直、頭が回り始めても大して身動きが取れないこの状態と言うのは、大人である自分も退屈だったのだ、色々と話し相手が居るのは悪くない。
他にも怪我人は居たようだが、自分より軽症で、先に退院して行ってしまったので、話相手は居なかったのだ。
傷の状態がかなり酷かったので、寝込んで魘(うな)されて居る内に結構な日数が立って居たらしい。
「ねえ? どんな話?」
子供が身を乗り出して此方の顔を覗き込んで来る、此処迄しっかり釣れたのなら、相手してやろう、本を閉じて、子供に向き直る。
「そうだな、こんな話は知って居るか?」
冒険者と言う物は、各地を回り、色々な人と出会い別れ、命懸けで戦ったりして居る物だ、安全マージンは目一杯取って居るが、予定外の不意討ちは幾らでも出て来る、こう言ったお話のネタには困らない。
その子供は、そんな冒険者の色々な法螺話や、自分語りを色々としてやった、子供は只目を輝かせて、次々と展開する物語をせがむ様になった。
飲み屋で有る事無い事を自慢げに語る歳を食った爺様の気持ちも良く分かる、自分は興味深そうに聞いてくれるその子供相手に得意気に、知って居る限りの話を聞かせていた。
そして、無事身体も動くように成った頃、そろそろ退院と言う運びと成った、長々と世話に成ったので、なけなしの金貨払おうとした所。
「その手では之からの生活の事を考えて、今は収めて置いて下さい」
やんわりと断られた。
「そもそもこういう強制参加依頼で怪我した時はギルド持ちですから、安心してください」
苦笑を浮かべて2重に断られた。
「どうしてもだったら、生活が安定した頃にもう一度顔を見せて下さい」
商売っ気の無い医者だなと、思いつつ、深々と頭を下げて礼をする。
視界の隅に、寂しそうな顔を浮かべた子供の顔が写った。
「そう言えば、あの子の親は?」
自分には、現PTメンバーが見舞いに来たが、あの子供の縁者の類が見舞いに来たのを見た事が無い。
此方の見舞いも、それぞれの生存報告と、怪我の状態の確認、餞別として金貨を一枚置いて行った程度だが、子供に見舞が無いと言うのは酷い。
「一家纏めてやられてしまったらしくて、役所とギルドの方にも縁者が居ないか問い合わせて居るのですが、どうにも良い返事が無く・・・」
歯切れの悪い返事が帰って来る。
「天涯孤独か・・・このままだと?」
「此処でずっと育てる余裕も無いですから、孤児院送りでしょうか・・・・」
医者も気が進まない様子だ、奴隷として売ろうかと出て来ない辺り人格者だろうか?
「それじゃあ、俺が引き取っても?」
提案して見る、袖すり合うも多少の縁だ、知らない仲では無い。
「良いのですか?」
少し驚いた様子で聞き返して来る。
「どうせ冒険者も廃業だが、子供の一人ぐらいは面倒見れるさ」
そう言って一息止まり、子供の方に視線を送る。
「まあ、彼奴の反応次第だがな」
嫌だと言われれば其処までだ
「懐いて居るから大丈夫でしょう」
改めて、一緒に来ないかと聞いて見ると、少し寂しそうな、複雑な表情を浮かべて、足にしがみ付いて来た。
どうやら、自分がどんな境遇で居るのかは理解できているらしい。
見た所、5歳程度だが、結構頭が良いのかもしれない。
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