第171話 新さんの魔力
新さんとシャクシャイン組の……すこしだけ政治的なやり取りが終わって、出された食事のほとんどを食べ尽くして、そうして俺達は膨れた腹を抱えながら、ゆったりとした時を過ごしていた。
まだまだダンジョンは攻略出来ておらず、攻略するにはあの扉の向こうの大物を倒さなきゃならねぇ訳だが……そこら辺についてはまぁ追々考えれば良い話で、とにかく今は体を休めて……そして少しでも魔力の器が育ってくれることを、願うばかりだ。
俺達がそうやって休んでいると、ネイが茶を淹れて持ってきてくれて……礼を言って受け取り、茶を飲んで体を更に休めて……と、そうしていると新さんが、ぽつりと言葉を漏らす。
「そう言えば魔力の器とやらは瞑想で見出だせるもの、なんだったか」
「えぇ、まぁ……瞑想というかなんというか、俺の場合はペルの誘導のおかげもありましたが」
俺がそう返すと新さんはペルへと期待を込めた視線を送り、色々と貰い物をしたばかりのペルは嫌な顔一つせず、少しでも恩返しが出来るならと、テテテッと新さんの前へと駆けていって、新さんに目を瞑るようにと促し……それから俺達にしたように、静かに語り始める。
目を閉じ、まぶたの裏に見せる世界は個々人で違うものである。
真っ暗闇であったり、光が弾ける様であったり、光の奔流であったり様々で……図形や花柄、獣の姿なんてものを見る者もいる。
そしてその光景は、己の中にある心の世界を映し出したものであり……心の世界こそが魔力の根源であり、魔力が生まれ貯蔵される場所でもある。
だがただ世界があれば魔力が貯まるというものではなく、世界の中に器が必要で……器と聞いて最初に想像した、人によって違う種類、形の器を心のなかに作り出し、それでもって魔力を受け止めなければならねぇ。
そういう話を聞いた流れで俺が想像したのは飯茶碗であり、飯茶碗なものだから当然、魔力は米のように降り積もり、小山を作り出し……そして俺はそれを、心の世界とやらの中でばくりと、食べてしまった。
魔力を食べたことにより、俺は自らの体内に魔力を宿し力を増させるパッシブ魔法が使えるようになり……普通に器を作り上げたネイは、魔法によって炎を生み出せるようになった。
……ネイはその炎を便利だ便利だと、竈や風呂、行灯の火付けなんかにちょいちょいと使っているそうで……まぁ、魔法も魔力も使いようということなのだろう。
そんな魔法と魔力を新さんが……江戸城の主がどう使うのか、少し興味があるなとその様子を見やっていると……ペルの誘導が上手くいったのか、新さんの周囲にふんわりと……まだ少ししか感じ取れねぇが、確かな魔力の気配が漂い始める。
直後新さんがくわりと閉じていた目を開き……片手を上げて、その手の平の上に魔力を集めでもしたのか、何か白い玉のようなものが浮かび……それがぱぁっと、淡い黄色……というか、太陽色の光を放つ。
「ふむ……まぁ、こんなものか」
眩しくねぇ程度の光を放つという、凄いのか凄くねぇのかよく分からねぇ現象を見て新さんは、魔力を得られたということに満足しているのか、なんとも良い笑みを浮かべて、そんなことを言う。
「光の魔法ですか、夜なんかは便利そうですね」
そんな新さんに俺がそんな言葉をかけていると、新さんの側でその光をじぃっと見ていたペルが、なんとも深刻そうな表情をし、唖然というか驚いているというかそんな表情をしてから、声を上げる。
「うわ、やっぱりだ、これ凄ぇ……ただ光ってるだけじゃなくて、温かいんだよ。
囲炉裏の側のせいでいまいち分かりづらかったけど……これ、太陽を魔法で再現してるんじゃないかな?
いや、本物とは規模も熱量も全然違うんだろうけど……もう少し魔法に慣れて器が大きくなったら、冬でも作物育てられるとか、それなりの広さの空間で囲炉裏なしでも暖かく過ごせるとか、そういうことが出来るんじゃないかな?」
その声を受けて、俺やネイ、ポチ達なんかは、その凄さがよく分からずなんとも言えねぇ顔で首を傾げる。
ペルと、ペルの側に駆け寄ったボグの顔からすると、かなり凄いことのようで……いや、まぁ、そうか、寒さの厳しいシャクシャインであれば重宝する魔法な訳だから、そりゃぁ当然俺達とは全く違った評価になる訳か。
惜しむらくは新さんの立場としては、シャクシャインに行く訳にも住む訳にもいかず、活用がし辛いって所だが……それでもまぁ、寝る前に寝床を温めるとか、早朝の執務室を温めるとか、それによって体調を崩しにくくなるとか……色々と便利に使えそうではあるか。
「ふむ……まぁ、あの方の流れを継ぐ者としては、こういった魔法を使えるようになるのは当然のことかもしれないな」
そんな空気の中、新さんはそう言って……どこか嬉しそうというか、誇らしそうな顔をして、小さな太陽を掲げていたその手を大きく振り上げ、腕をピンと伸ばした上で……さらなる魔力を込めて明かりの強さを増させていく。
するとすぐにほんのりと……春先に感じるおうな柔らかな温かさが周囲を包み始め、俺達が「おぉぉぉ」と感嘆の声を上げる中……ペルが裏返ったような声を張り上げる。
「あれ!? これ!? 温かいだけじゃない!?
な、なんだこれ、何なんだこの魔法!?」
そんな声が響き渡ったと思ったなら、直後に独特の感覚が体内の……腹の奥底から湧き上がってくる。
それは以前……湯豆腐を食った時にも感じた魔力の器が大きくなった時のあの感覚そのもので……俺がこれは食事によるものなのか、それとも新さんの光によるものなのか、どっちなんだと困惑していると、隣に座っていたネイも、反対側に座っていたポチも、シャロンもクロコマも、ペルもボグも同じような困惑顔となる。
それは暗に他の面々にも同じ現象が起きているということを示していて……ただ一人、新さんだけは誇らしそうな顔で自らが生み出す光を見やっていて……どうやら新さんだけはその現象が起きていねぇようだ。
食事は新さんもしていた……まぁ、新さんが魔力に目覚めたのは食後のことであって、それが影響しているのかもしれねぇが……それよりも何よりも俺達は、新さんの放つ光が、この減少を引き起こしているんじゃねぇかと、そんなことを思ってしまうのだった。
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