書籍発売記念SS 『こたつとみかん』
空気が妙に冷え込んだ冬のある日。
居間に引っ張り出されたこたつに足と手を突っ込んで、ぬくぬくとこたつ特有の暖かさを楽しんでいると……ポチがみかんを山盛りにした竹籠を持ってきて、こたつの天板にことんと置いて……そしてコボルト用のこたつ座椅子をこたつにぐいと挿し込んでから、そこに座って足をこたつの中に入れ……うっとりとした表情をし、天板にこてんと顔を横たえる。
「……気持ちは分かるが、せっかく持ってきたんだ、みかんを食ったらどうだ?」
みかんを手を伸ばしながらポチにそう声をかけるとポチは、顔を横たえたまま言葉を返してくる。
「あー……はい、えぇ……はい。
まぁ、その通りなんですけど、今はおこたの暖かさに身を委ねていたいんですよ……」
「まぁ……良いけどな。
気持ちは分かるし……」
そんな言葉を返した俺は、みかんを手に取り皮を剥き……一房つまんで口の中に運ぶ。
「お、なんだこのみかん、妙に美味いな。
しっかり甘くて酸味は程々、果汁たっぷりで瑞々しい……一房一房大きくて食べごたえもあるし、どこのみかんだ? これ?」
「ああ、それはあえて言うなら大江戸の、歩いていけるくらいの近場のみかんですよ。
近場でエルフさんが作ったものだそうで……エルフの知識のおかげで美味しくなってるんでしょうねぇ」
俺の感想にそう返したポチは、自分も食べたくなったのか顔を起こして手を伸ばして……そうして皮を向いたなら一房食べて……目を大きく見開き、輝かせて、次から次へと口の中に放り込み、ものすごい勢いで食べていく。
「いやぁ、美味しいですね、このみかん!
こんなに美味しいみかんがあったとは……今日の日記のネタはこれにしましょう!」
食べて食べて、食べ尽くしたら次のみかんを手にとって皮を剥いて……そうやってみかんを食べ続けるポチの言葉に俺もまたみかんを食べ進めながら言葉を返す。
「日記、か。
よくもまぁ子供の頃からずっと続けてられるよなぁ……俺なんか三日坊主で、その三日もロクでもないことしか書いてなかったような気がするねぇ」
「嫌々書くからそうなるんですよ。
まずは表紙に今後の目標とかそういう意味を込めた題名をかいて、その題名に相応しいように日々を生きて、そしてその結果を文字に起こす。
そうすることで得られる達成感があってこそ続けられる訳で……僕の場合は日々精進日記って題名にした訳ですけど、狼月さんもなんかそんな感じの、良い題名をつけるとこから始めてみてはどうですか?」
「題名ねぇ……っても俺が書く内容なんか、お江戸での飯屋巡りの話と、ダンジョンの話と……それとポチ達コボルトの話くらいになるからなぁ。
そんな内容で良い題名なんて言われてもねぇ……。
……ああもう面倒くさいから、大江戸コボルトで良いだろ、うん」
「……また適当な題名をつけて……それで続くんですか?」
「なるようになるなる、それよりもほれ、今はみかんだみかん、リン達が学校から帰って来る前にある程度食っておかねぇと、食い尽くされちまうぞ」
と、俺がそう言うとポチは「そうでした!」と、そう言って……大慌てで次のみかんへと、その大きな手を伸ばすのだった。
――――
本日発売の書籍版、大江戸コボルト -幻想冒険奇譚 江戸に降り立った犬獣人- をよろしくお願いいたします!!!
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