第158話 再戦 化け物蕾
蔓対策に盾を使うことになり……もう一つか二つ、対策がしたほうが良いだろうとなって、防具のことはそこまで詳しくねぇ俺はまず牧田に相談してみて、そして次に御庭番衆隠密の田畑にその辺りのことを相談してみたのだが、その田畑からそういうことならばと、こんな案が出てきた。
『その蔓がどの程度のもんかは知らないが、鞭っていうなら全身を布で覆えば良いんじゃねぇか?
毛皮の友人が無事だったように、鞭ってのは薄皮一枚あるだけでだいぶ軽減出来るもんだからなぁ……すぐに破れるような布じゃぁなくて、それなりに丈夫な布で覆えばかなり防げるはずだ。
お前の装備は今の時点で十分なくらいに立派なようだから……後は、そうだな、昔の隠密みたいな頭巾を被ってみたらどうだ?』
毛皮は無理だが頭巾だけならまぁ……あの湿気の中でもなんとかなるはずで、今の防具に使っているような異界の糸を編み込んだ布ならそれなりの強度となってくれそうで……ならばと、俺の分の頭巾を注文するかとなったのだが、そこでペルとボグから『待った!』の声が上がった。
『ちょっとまってよ、ニンジャだって!?
ニンジャ装備ならオイラも欲しいよ! 頭巾に装束に、鎖帷子とかさぁ!!』
『お、オラも毛皮の上から被るようなのが欲しいなぁ、あの自来也みたいなさぁ』
その声を受けて一体なんだってまた忍者だとかなんとかそんなことを知っているのかと問いかけると、どうやら箱館の方で自来也説話や豪傑譚の劇が流行っているらしく、シャクシャインの連中もそれを楽しんでいるらしく……シャクシャイン内で勝手に続編というか、自来也を主人公とした物語まで創作されているようで、それがまたとんでも忍者となってしまい、そのとんでもさが良いと大人気となっているらしい。
忍者は火を吹き出し、手から水流を生み出し、風を踏んで空を舞い飛び、小指一本で大岩を砕いたりもするらしい。
更には自来也らしく蝦蟇を操るそうなのだが、その蝦蟇もまるで龍かと思う程に強いってことになっているらしく……もう何もかもが無茶苦茶だ。
ともあれ、そういう訳でペルとボグの分の頭巾と装束も作ることになり……三人分となると流石に時間がかかるってんで、七日程待つってことになり、その間は鍛錬や深森の研究に付き合うことになり……頭巾やらが完成し、それの試着やらを済ませて、八日後。
「よーし、行くか」
と、そんな声を上げた、頭巾姿の俺に続いて、すっかり自来也気分の忍者装束のペルとボグと……量産が完了した何本もの流し針を矢筒に入れて背負ったポチ、シャロン、クロコマが後に続く。
ちなみにだが装束と頭巾の色は黒ではなく、ペルは茶色、ボグは深緑色と地味な色となっている。
現役隠密の田畑曰く、黒は意外と目立つ色であるらしい。
たとえ周囲が暗闇に包まれていても、人間の視界内で真っ黒なものが動くと、思わずそちらを見てしまうものであるらしく……黒より目立ちそうな茶色や深緑色の方がむしろ目を引かねぇらしい。
俺のものに関してはまぁ……そもそも忍者ごっこがしたい訳じゃぁねぇので色で染めずの白頭巾となっている。
他人に見せつけるようなものじゃぁねぇし、相手は植物で目もねぇ訳だし……色なんてのはまぁどうでも良いだろう。
そして俺とボグは、牧田達が改めて頑丈に作ってくれた、大盾を持ってきている。
外枠と中心に鉄の骨組みをいれて補強をし、木材も特別頑丈なものを選んで作ってくれたらしく、これであれば何十何百と打ち据えられても耐えてくれるはず……とのことだ。
そんな装備でもう一度、第五ダンジョンに踏み入り……あのむせ返るような湿気の中を歩いていって、顔中にミミズ腫れを作ることになった、あの部屋が前方に見えてくる。
「……さぁて、顔中に作ってくれたミミズ腫れの仇討ちと行こうかねぇ」
見えてくるなり俺がそう言うと、ポチ達が小さく笑い……忍者気分のボグとペルが鼻息荒く『おう!!』と返してくる。
結局あの時のミミズ腫れは四日ほど腫れ続けてくれて、俺の安眠を妨害し続けてくれやがった。
シャロンの塗り薬がなけりゃぁもっと傷んだ上に、もっと長引いていた可能性もあるとかで……全く厄介なことをしてくれたよなぁ。
もう二度とあんな目に遭ってたまるかと、気合を入れ直し盾を構え直し……そうして数歩進むと、またあの場所に化け物蕾が鎮座している。
「まず俺とボグが出る! 大盾でしっかりと蔓を受け始めたのを確認してから、流し針を刺してくれ!
それと有効だってことはもう十分な程に分かっているからな、刺す本数は程々にして、刺し終えたらさっさと後退、安全を第一にしてくれ!」
そう声を上げたならボグと二人、盾を構えながら化け物蕾の方へと足を進めていって……するとすぐに化け物蕾は構えた大盾をその蔓でもってばしばしばしばしと、凄まじい勢いで叩いてくる。
盾を叩いて叩いて、とにかく盾を叩き続けて……化け物蕾には恐らく、目の前のそれが何であるのかが理解出来ていねぇのだろう。
目の前に大きな獲物が現れたからと、それが何であるかも考えずにただただ叩いているといった様子で……これが小鬼だったなら盾を避けて攻撃しようとか、盾の内側に回り込んで攻撃しようとかそんな判断を下すはずだ。
猪鬼も恐らく同様で……化け物蕾みてぇに目のねぇアメムシには同じ感じで盾が有効だったな。
一体どんな方法でこちらのことを感知しているのかは分からねぇが、目がねぇってだけでこんなことになるんだなぁと、そんなことを盾の内側で考えていると、ポチとシャロンとペルと、それと符術は必要ねぇだろうとの判断で流し針刺しに参加することになったクロコマが、俺達を避ける形で大回りに動いて……化け物蕾の左右に回り込む。
そうしたなら化け物蕾に気付かれねぇように慎重に、矢筒から針を取り出し、両手で構えて……そして化け物蕾へとぶすぶすと刺していく。
以前は化け物蕾の樹液を踏んだことで、その存在を気取られてしまったポチ達。
あれは一体何だったのか、音を聞いているのだとしたら流し針を刺す音で気付いても良さそうなものだし、振動だとかを感知しているのであれば、それはそれで流し針を刺された時点で気付けるはず……。
目も耳も鼻もねぇこいつが一体どうやってポチ達に気付いたのか。
そこら辺が明らかになるまでは警戒が必要で……ポチ達はそれぞれ五本ほどの流し針を刺した時点で脱兎のごとく駆け出し……ペルだけは妙に芝居がかった仕草での忍者のような走り方で駆け出し、化け物蕾から距離を取る。
そんな中俺達は大盾をしっかり構えて蔓を受け続けて、化け物蕾は蔓を振り回しながら樹液を垂れ流し続けて……そうして化け物蕾は、思っていた以上にあっさりとしおれて消滅し、ドロップアイテムがぽとぽとと降ってくるのだった。
――――お知らせです
近況ノートの方でまた書籍版イラストを公開しますので、興味ある方はそちらもチェックしていただければと思います!
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