第54話 大アメムシ戦後の光景


 ポチとシャロンに叩きのめされ、溶け切って……そうして大アメムシが居たそこから、鬼の時にも見た星屑が飛び散り始める。


 きらきらと煌めきながら舞い上がって……星屑が放つ光の中に以前にも見た、夢幻のような光景が浮かび上がる。


 以前とは全く違う雰囲気の、赤レンガ作りの城か要塞の中……一つの机を囲む形で、鉄鎧姿の男達が言葉を交わし合っているようだ。


「何でしょう……何をしているんでしょう、彼らは。

 ……話し合いというよりも議論。それか喧嘩という感じもしますね」

 

 光景をじっと見つめながらのポチの言葉に、俺は男の挙動達を見逃すまいと目を皿にしながら言葉を返す。


「……切羽詰まっているようだな。

 同じ場で同じ意匠の鎧を身にまとっているような、近い立場の味方同士だろうにあそこまで嫌悪感を表に出すとは……。

 ……何かが上手くいっていねぇ……城に立てこもっての防衛戦の最中……にしては肌や髪が綺麗だな。

 どこかに攻め込んでいるのか……これから攻め込むのか。

 どいつもこいつも痩せこけている辺りからして、兵糧問題かもしれねぇな」


「なるほど……確かにその通りかもしれませんね。

 以前の光景で見た人々もそうでしたが……この幻の世界では飢えが深刻な問題になっている……という感じなのでしょうか。

 ……しかし飢えているというのなら、一刻も早く田畑を耕せば良いでしょうに、こんなところで一体何をしているんでしょうね?」


「さてなぁ……耕せねぇ問題があるのか、耕す気がねぇのか……そもそも耕し方を知らねぇのか。

 ……田畑は国の根幹、それを知らねぇってのはいくらなんでもありえないか。

 すると……何か問題があって耕せず、その問題を解決すべく議論している、というところか。

 根幹であるだけにそこに問題があるとなると深刻だ、議論している暇があるならまず動けば良いだろうに」


 俺とポチがそんな言葉をかわす中、シャロンは鉛筆と紙を鞄から取り出して、必死に目の前の光景を文字にし、絵にし、書き留めていく。

 

 そうやっておけば情報としての価値が上がるということなのだろう……その様子を横目で見た俺は、今度の機会があれば俺達もそうすべきだろうなとそんなことを考えつつ、今は目の前に広がる光景に集中しようと、意識を切り替える。


 ……が、そこで星屑が消え去り、大アメムシの残骸も消え去って……浮かび上がっていた光景も雲散霧消してしまう。

 

 その直後、がしゃんがしゃんとけたたましい音が響き渡り、俺達は、


「うるせぇうるせぇうるせぇ!!」


 と、そんな声を上げながら両手で耳を塞ぎ……ポチ達は耳をペタンと押さえて、大アメムシがいたそこから距離を取る。


 その音はしばらくの間……結構な時間続いて、大アメムシがいたそこに俺の腰程の高さの山を作り上げる。


「……刀剣、か?

 それと連中が着ていた鎧だな……。音の逃げ場がないこんな部屋に、勢い良くこんなのが振ってくりゃぁそりゃぁ五月蝿いわなぁ。

 ……質の良い鉄なら喜ばれるんだろうが……しかしこの程度の量じゃぁなぁ」


 俺がそう言って鉄製品の山へと手を伸ばすと、ポチとシャロンが鼻をすんすんと鳴らし……山の中へとその頭を突っ込んでいく。


「お、おいおい、何をやってんだ、崩れたりしたら危ねぇぞ。

 山の中を検めるにしたって、一つ一つ丁寧に崩していけばいいじゃねぇか!」


 俺がそう言って、山へと手を伸ばそうとしていると、下半身だけを外に出しているポチとシャロンが、その尻尾をぶんぶんと振り回し始めて……ずぼりと体を引き抜く。


「見つけました!」


「ありましたぁ!!」


 ポチとシャロンは順にそう言って、それぞれが手にしていた物を掲げてみせる。


 ポチが手にしていたのは小刀だった。

 宝石が散りばめられた豪華な意匠の鞘に入ったそれは、柄も鍔も豪華な作りとなっていて……ポチがそっと鞘から引き抜くと、太い刀身に波打った刃紋が……波打ちすぎだろうというくらいに、ぐね曲がった刃紋が姿を現す。


「……すげぇというかなんというか、少し気味悪いくらいだな。

 だがまぁ……良い金にはなりそうだ。

 シャロンの方は何を探り当てたんだ?」


「はい、こちらになります!」


 シャロンが手にしていたのは小さな革袋だった。

 シャロンが口紐を解いて中身を検めてみると……ちゃりちゃりと小気味の良い音が響いてきて、金色に煌めく丸い硬貨が姿を見せる。


「へぇ、金貨か。

 金貨が……全部で14枚か。金の量としちゃぁ大したことはないが、なかなか悪くねぇな。

 鉄と合わせて三人で分けてもそれなりの儲けになりそうだ」


 俺がそう言うと、ポチとシャロンは尻尾を振り回しながらなんとも嬉しそうな、満面の笑みを浮かべる。


 鉄の山の中から自慢の鼻を頼りにお宝を見つけ出し、掘り出せたことが余程に嬉しいのだろう。

 ポチとシャロンは手にした宝を大切そうに抱えたり、抱きしめたりとし始める。


「お宝探しってコボルトの意外……でもない趣味、発見だな。

 どうする? 今回は幕府に渡さず自分達の物にしちまうか?

 俺はそれでも全く構わねぇぞ」


 と、俺がそう言うとポチとシャロンは鼻筋にシワを寄せて、ぐぬぅっと悩み顔を作り出し、うんうんと悩み始める。


 それを見て俺は小さく笑いながら、ポチ達が悩んでいる間に少しでも運びやすくしておくかと、鉄の山の見分と整理を始めるのだった。


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