第44話 保育園
コボルト達と手を取り合い、コボルト達と共に歩んだ綱吉公。
その成功にあやかって江戸の人々はコボルト達と共に歩んでいくことを、流行の一環として受け入れた。
人にしか出来ないことがあり、コボルトにしか出来ないことがあり……だからこそ人とコボルトは互いの手を取り合って、一つの屋根の下で暮らしていくことを良しとしたのだろう。
俺達とポチ達が同じ家で……二家一屋根で暮らしているのもその流れを受けてのことで、この流れは江戸の家々のほとんどで今も当たり前のこととして続けられている。
人は一人では生きてはいけぬから夫婦となり、家族を作る。
人とコボルトの共同生活も、それと似たようなものだと言えて……少なくない実利があるからこそ、人々はその生き方を受け入れたのかもしれねぇなぁ。
とは言えその生き方は、当然のことながら利ばかりではなく、相応の害……というか、問題を発生させるものでもあった。
コボルト達との共同生活の中で、全く何の問題も起こらなかったなんて、そんなことはなく、それなりの問題が起きていて、問題が起きる度に対処していって、上手く問題を解決することでより良い生活を手に入れていったと、そういう訳だ。
そしてそのいくつもあった問題のうちの、代表的なものが……コボルトの成長の速さと子供の多さによる出産問題だ。
コボルトの寿命は、昔はかなり短かったそうだが、今は人のそれと大差が無い。
大差が無いというのに成長はとても早く、生まれて二、三日で立ち上がって駆け回り、驚く程の早さですくすくと成長し、四、五歳で身体が出来上がり子を作ることが出来て……大体十歳くらいで成長が完全に止まる。
更には多産の傾向にあり……ポチのように一人で産まれるのは稀の稀。
ポチの弟妹であるポール、ポリー、ポレットのような三つ子すらもが稀で、四つ子や五つ子が『当たり前』だというのだから、驚きだ。
それは戦国の世よりも厳しいという、あちらの世界で暮らしていたからこその特性であり……それが太平の世の中で人の世話を受けながら暮らしたらどうなるのかは、火を見るよりも明らかだった。
あっという間に江戸は赤ん坊コボルトまみれとなり、江戸のそこかしこからコボルト達の産声が溢れ、溢れたコボルトの赤ん坊達をどう育てていくのかが問題になり、すぐさま綱吉公は、コボルト達に子供を作りすぎてはいけないとの教育を施し……同時にコボルト達を養育する……増えすぎたコボルト達を保護し、教育するための『コボルト保育園』を設立した。
自分達で育てられるならば、教育出来るならばそれで良し。
仕事などで忙しくて、あるいは子供の数が多すぎて育てられないのならば保育園に預けることが推奨されて……保育園では成長の早いコボルト達への就業訓練や、道徳教育、性教育などが行われて、そうした教育の結果……コボルト達は様々な分野での活躍をするようになり、また子供の数を『程々』で抑えることを覚えた。
それでも尚も二十、三十も子供を作ってしまう者も居たようだが……そういった例は保育園での教育のおかげで次第に減っていって、今では稀な例となっている。
そうやって保育園での教育していった結果、出産数それ自体は激減した訳だが……それで保育園の役目が終わったかというと、そういう訳でもない。
コボルトそれ自体の数が物凄い数となってしまっているし、コボルト達が仕事について働くようになった結果、育児だけに注力している訳にもいかず……コボルト達の社会進出が進めば進む程、コボルト保育園の重要性はうなぎのぼりに上がっていくことになった。
数を増やしていって、どんどんと拡充され、あまりに数が増えすぎた為に、専用の土地を確保しての大統合が行われ……そうして江戸を代表する一大施設となったコボルト保育園。
東へ向かい、川を何度か超えて……そうしてそこへと近付いていくと、うるさいくらいに元気なコボルトの子供達の、赤ん坊達の声が響いてくる。
そんな声を全身で受け止めながら、脱走防止と防犯の意味を込めての大きなに囲われたその一体の、入り口警備所へと近付いていくと、顔馴染みの警備員コボルトが、声をかけてくる。
「やぁ、狼月さんとポチさんじゃないですか!
また遊びに来てくれたんですか? それとも寄付ですか? どちらにせよ助かりますねぇ」
その言葉の通り、コボルト保育園は常に子供達の遊び相手や寄付を募集している。
幕府が運営しているとはいえ、その財布事情は中々に厳しいものであり、人々の善意に頼っている部分も大きいという訳だ。
御庭番という安定した収入のある俺とポチもそれなりに……まぁ、見栄を張る程度の寄付をしていて、警備員と顔馴染みになる程度には保育園に足を運んでいた。
「ああ、今日は時間がねぇから寄付だけだがな……園長に顔を見せたらそれで退散する予定だ」
と、俺が警備員に声を返すと、警備員は脇に挟んでいた板に貼り付けた紙に、鉛筆でもってさらさらと俺とポチと、それとシャロンの名前と、入園の目的を書き込んで、入園許可札を手渡してくる。
その札についた紐を掴み、首から下げた俺達が塀の中へと、園内へと足を進めると……広大な運動場が広がっていて、その運動場の向こうから、その鼻で俺達の匂いを嗅ぎつけたらしい、数え切れない程のコボルトの子供達が、こちらへと物凄い勢いで駆け寄ってくる。
「遊んで遊んで遊んで!」
「お客さんだお客さんだお客さんだ!!」
「あー! 御庭番をやめて遊び人になった狼月だ! 遊んでばっかりのダメダメ狼月だって皆が噂してたぞ!!」
駆け寄ってきながらそんな声を上げた子供達は、駆ける勢いを殺すことなくそのままに跳び上がり……そうしてその突撃の直撃を受けた俺達は、コボルトの子供まみれとなってしまうのだった。
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