俺は、いつ異世界に召喚されてもいいように万全を期す!
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第1話
大学に通い始めた頃から、俺には歓迎し難いあだ名が出来た。
そのあだ名は、俺の見た目に由来するらしい。
そんな俺の恰好は、一年中通して、常に頭はニット帽。
上着は厚手の皮で出来たフード付きのコートを羽織り、中にはタートルネックの毛糸のセーター・ダウンチョッキ・ヒートテック。
下は、ジーンズの上に防水防寒パンツ。靴は、安全靴。
夏場はくそ熱いがこれも修行だと思っている。
そして極めつけは、80Lもの大きさのバックパックに寝袋を積み、サイドにランタンや金槌類を下げている。
そのせいで俺のあだ名は、キチガイ・変人・変り者・化け物・社会不適合者からの ”
まぁ、そんなことはどうでもいい。早く帰って、異世界へ行くための修行をするとしよう。
漸く見えてきた校門に向かい歩く速度を上げた。
「うおっ! びびった! 何あいつ」
「……っ!」
「あぁ、壊人だろ?」
「何、その名前……本名じゃねーよな?」
「あぁ、確か……本名は、きゅ、きゅ?」
「きゅ、きゅと?」
「違うわ。きゅきゅっとは洗剤だろ……ウケル」
「
「へ~。そんな名前なんだ……でさ~。今日の合コンなんだけど……」
大学の校舎を横切り帰宅する俺にぶつかって来た、同じ大学に通う赤の他人を支えてやった。それなのにこいつは、お礼も言わないどころか俺の名前を食器用洗剤と間違う始末だ。
こんな奴は間違いなく異世界に行ったら「勇者だ」「賢者だ」と祭り上げられその世界の人間に、いいようにこき使われた挙句裏切られるのだ。
俺はそうならないために、できうる限りの最善を尽くし努力する。
いつかきっと、異世界に召喚されるだろう。その時、後悔しないため日々、準備と努力と妄想は怠らない!
総重量100キロはあろうかと言うバックパックを背負い、足腰を鍛えるために電車を使わず3時間の道のりを歩いて帰る。
今日も己で課した日課をこなすため、更に速度を上げた。
俺が俺に課した日課とは――
1つ――異世界でスキルになりうる剣術と筋トレだ。
剣術は、素振りを主に2時間。
筋トレは腹筋、背筋、腕立て、スクワットを10回を5セット。
これらは、全て朝4時に起きて行っている。
2つ――生き抜くために必要となる料理だ。
料理は主に、釣った魚をさばいたり、肉の解体に重点を置いた。
流石に生きている動物を、解体する訳にはいかない。そこで、俺は考えバイト先に肉屋を選び、現在解体の修業中だ。
3つ――召喚された時、寝床の確保と寝れる事が重要だと考えた。そこで思いついたのがサバイバルだ。
不慮の事故で街から遥か遠くに、飛ばされる可能性も考えられる。
そこで、森・雑木林・山中・砂漠・海の上の島にすぐさま寝床を確保できるよう訓練中だ。
4つ――異世界のモンスターや植物・毒について暗記する事だ。
召喚された世界に、モンスターが居た場合その対処に困れば死ぬ。そして、毒を飲まされたり食べさせられた場合も同様だ。
一番最悪なのは、モンスターが毒や麻痺を持っていた場合だろう。
そう考えた俺は、死なないためにラノベの中に登場したモンスターや毒・植物の名前と特徴をノート数冊に書き出した。
以前ネットで購入しておいた、二冊セットの
それらをノートを見比べ、ひとつ、ひとつ名前・特徴・急所や色・匂い・形などを全て覚えいる最中だ。
5つ――行く可能性のある異世界の情報をラノベから得ることだ。
思うに、ラノベの異世界モノを書く作者は皆全て ”異世界からの帰還者” ではないかと俺は考えている。
あの素晴らしい文章からつくられた世界観。どう考えても見た事もない世界を文章のみで書けるわけがないのだ。
そのことから俺は、ラノベ作品を読み漁りアニメを見て情報を収集をする。
更に己の脳内で帰還者が思い描いたその世界を妄想し、いつでも異世界に召喚されても大丈夫なように準備を怠らない。
だからこそ俺は異世界でも完璧に、生き残れると自信を持って言える!
いつもの日課が終わり、冷えた身体を温めるように布団に入る。うっつらうっつら訪れるまどろみに身を任せ俺は眠りについた。
これは夢だとわかる夢はよくある。今回のもまた夢だと思いながら、俺はいつもの格好で大学から自宅まで歩いていた。
家まで残り5分と言う所で召喚陣が浮かんだ。発光する光の余りの眩しさに瞼をきつく閉じた。
これが召喚だ。期待と緊張で心臓がどきどきと跳ねるのを感じながら目を閉じたまま周りを探る。
耳が痛くなりそうな静けさの中、閉じた瞼を開いた俺は周囲を見回した。
沢山の魔術師のような奴らに囲まれながら、呆然とする高校生の男女が四人とプラス俺……これは、どう見ても巻き込まれてしまった気がする。
あぁ、折角最高な気分だったのに……。
俺としては、神様に召喚されて……一人で異世界へ来たかった。
こう言う場合、大抵のラノベで勇者はあいつらの方だよな……イケメンだし、正義感強そうだし。
やっぱり、俺の運命はただ巻き込まれて召喚されただけのクソゴミ……だったんだな。萎えるわ~。
結果を見るより明らかな状況に、一人憂鬱な気分になった。
そんな俺の気分などお構いなしに、周囲から喜びの声があがる。
「オォォォォ! 伝説通り勇者様がっ!」
「勇者様が召喚されたぞ!」
「これで我が国は安泰だ!」
涙ながらに喜びを分かち合う周囲の魔術師たち。
その上座に当たる位置には、王じゃないかと思われる男がニヤニヤと憎たらしい笑みを浮かべていた。
確実にこいつが王様だろう。そうあたりをつけ男を観察する。
でっぷりとした腹を惜しげもなく見せ、煌めく宝石をやたらとつけている上に偉そうに椅子にふんぞり返っている。
その横に立つお姫様は可愛いと思う。金髪美女でスタイルもいいが、うーん。あ~、こいつは無理だな、俺とは確実にソリが合わないタイプだ。
それにだ! ラノベを読むことで鍛えた経験値が、直観的に信用できないと言っている。
「皆さま、召喚に応じて頂きありがとうございます。わたくしは、このアルスティア王国にて宰相をさせて頂いております。ローウェンと申します。以後、何か困ったことなどありましたら、わたくしになんなりとお申し付けください」
そう言って、でっぷりの横に立つ細みの男が俺たち五人に向かい頭を下げる。
こいつも多分まともじゃない。そう思った俺は、終始無言を貫くことにした。
「しょ、しょうかんだって!」
「やだ。翔君。どう言う事? あゆみこわ~い」
驚いたように声を上げた高校生の男子に、茶髪巻き毛のアヒル口の女がまったく怖く無さそうな声をあげ、腕に絡みつく。
他の二人もあゆみと言う女子と同様に、翔と呼ばれた男の裾や腕を掴み、不安そうな表情を浮かべた。
くそ、羨ましい……(吐血)
「混乱されているようですが、まずはこちらのお話をお聞きいただきたい」
混乱してると分かっているなら、もうしばらく彼らに落ち着く時間を渡せばいいものを……。
あぁ、やっぱりだめだ。こう言う自己主張の強い奴らとは無理だ。
宰相ローウェンは語る。
ベルディクトと呼ばれるこの世界の事を……。
俺的な解釈はこうだ。
ベルディクトには、海を挟み二つの大陸がある。
このアルスティア王国がある大陸は、メルヘルムと呼ばれる大陸で七つの国に別れている。そこには人・獣人・エルフ・精霊・ドワーフと言ったものが住んでいて、アルスティアは、人族主情主義。
他の六つの国は、ベルクード神聖皇国・ゲオス・ヒーナリ・ユークリース・ヴァリヴァル・ウォルリアと言う国名だそうだ。
もう一つの大陸はニュール。
その全土に魔族が住んでおり、国は一つしかないらしい。その名もニュール王魔国。
で、ここからが本題だ。
現在、メルヘルムの国をニュールが攻めて来ているらしい。
状況的にこの国は劣勢で、自分たちの力だけではどうにもできないと考えニュール王魔国の魔王を倒し、戦争を終わらせるため勇者を召喚した。
なんとも、ありがちなテンプレ。
まぁ、こんなのに騙される奴はいないだろう。
話の中で、民が~とか貧困が~とか言ってた割には、正面のでっぷり一族は超豪華な衣装に宝石をジャラジャラと付けている。
確実に、嘘もしくは罠だろうな……この話。
「そんな、酷い!」
え? 信じるの……あの話のどこに信じる要素があった! おいおい大丈夫か高校生!!
勇者と思われる翔が、同情的な声をあげた。
それに追従するように、女子たちも次々と声をあげる。
あ、ダメだこいつら……正義感と言うか、絶対勇者って言葉に酔ってる。
早々に見切りをつけるべきだな。
「皆さまにご協力いただけるようで非常に助かります。では、よろしければステータスオープンと唱えていただけますか? そこに、皆さまの称号がございます。よろしければ称号を読みあげてください」
丁寧な口調で、微笑んではいるが……眼が笑っていない。
こいつも、でっぷりん一族と同類だ。
と、そんな事を思っている場合じゃ無かったな。漸く俺のステータスが分かる!
召喚された五人が口々に「ステータス オープン」と唱えた。
透視化された小窓が浮かび上がる。
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名前 九重 大地 19歳
Lv 1
HP 12000
MP 100
称号 巻き込まれた異世界人
スキル 採取 狩猟 料理 解体 鑑定 言語認識
特殊スキル アイテムボックス
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どうやら、相手のステータスを見る事はできないようだ。俺の称号に勇者が出ていないと言う事は、間違いなくただたんにモブ――巻き込まれただけなのだろう。
はぁ、せっかく上手く夢を見れたと言うのにこんな嘘くさい所に召喚される夢だとは……。ここに長くいるのはごめんだ。いい加減、起きる事にしよう。
そうして俺は今日も異世界へ召喚されるための準備を整えるのだ。
俺は、いつ異世界に召喚されてもいいように万全を期す! ao @yuupakku11511
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