ショートホラー「輪廻」

棗りかこ

第1話 遺言


篠原里李子は、娘の絵里子に、いまわの際に、言った。


わたしは、もうすぐ旅立つから、この鍵を使って、貸金庫を開けなさい…。

そこに、遺産があるから。


絵里子は、頷いた。そして、鍵を受け取った。

それを見届けて、里李子は、目を閉じた。


「御永眠です。」

医師が、死亡を診断して、病室から出ていった。


遺産は、M銀行の貸金庫にあるとは、聞いていた。

だが、貸金庫を開けようとすると、支店長が出てきた。

「篠原さま、実は、多額の現金が入っておりますので…。」


支店長に案内されて、絵里子が貸金庫室に入室すると、

支店長が、鍵を受け取って、貸金庫の鍵を開けた。


「三億円あります。」


三億円?

その時、絵里子の脳裏に、五年前の「三億円強奪事件」のことが浮かんできた。

あの、三億円と同じ額だわ…。


その発想が、絵里子の鳥肌を立てた。


「あなたの、お父様の、生命保険金です。」

支店長は、厳かに絵里子に告げた。


父の命が、三億円?

絵里子には、その札束が、怖いものに思われた。


どうなさいますか?

支店長の声に、絵里子は、

「しばらく、考えさせてください。」と答えた。


「三か月ほど、考えてみます。」


絵里子は、寒気を感じながら、貸金庫室を出た。


ロッキード事件の、真相究明が、なされようとしていたころの、事であった。



―続く―

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