君に好きと言わせたい

まっく

 

「あの――」


「うち、無理やから」


「いや、まだなんも言うてないって」


「どうせ、また告白する気やったんやろ? あんたとは無理やって、何回言うたら気が済むんよ?」


 助手席の彼女は、訝しげな表情をしながら、忙しげにスマートフォンを弄っている。

 彼女は、この車に乗り込んでから、一度も僕の方を見ようともしない。


 僕は彼女に何度も告白してはフラれていた。もう妖怪人間の手では数え切れない。

 それでも僕は、呼び出されるとホイホイ彼女を迎えに行く。彼女の態度を見ていると今日の合コンは過去最悪級だったと推測された。


 僕は自他共に認める往生際の悪い男だ。

 この日は取って置きの策を用意してきていた。


「じゃあ、もし『すきや』って言わせることが出来たら、付き合ってくれへん?」


「そんなん言うわけないやん。アホちゃうか」


 彼女はスマートフォンから目を離さずに答える。


「『す』と『き』と『や』を続けて言わせたら、付き合うって約束な?」


「もうわかったって、ややこしい言い方するなぁ。絶対言わへんって」


「じゃ、約束やで」


 僕は赤信号で停車している間に、彼女の小指に無理矢理自分の小指を絡ませた。

 彼女は「はい、はい」と言って小指を解くと、またスマートフォンの画面に集中する。

 車は右折をして、いつもの国道に入る。


「あそこ、新しい店出来たんやな?」


 僕は助手席側の窓を指差す。


「あぁ、けっこう前から出来てたで。すき家やろ?」


 彼女は、これ以上ないくらい面倒くさそうな声で答える。


「今、なんて?」


「前から出来てた」


「じゃなくて、その後」


「すき家?」


「ゆっくり!」




「す、き、や。……あっ!」





 というのが、僕たち夫婦の馴れ初めです。

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