第42話 お料理
「今日の授業はここまで。きちんとやっておくように。」
担任の声を皮切りに一斉に生徒が飛び出していく。もちろんその中には俺もいるのだが残念ながら部活ではない。
タイムセールなのだ。学校から激チャでスーパーに向かうことでギリギリ間に合うのだ。スーパーに入った時から戦いは始まっている。常在戦場の気持ちで挑まなくてはいけない。あちこちに目を光らせている主婦たちがいる。
彼らは、互いに目でけん制しているあれは自分のものだと。この時間の主婦はマジで恐ろしい。信じられないほど動きが最適化されているのだ。ルートも最短の場所を通っており、熱量が違う。
「よっし。」
俺はスーパーを出て思わずガッツポーズをした。今回狙っていたものがとれたからだ。俺が狙っていたのは卵だ。卵は何にでも使える。シンプルに卵焼きでもいいし、揚げ物にも使えるし、お菓子作りにだって使える。最強だろこの食材。
「さてと問題は。」
そう、俺には問題がある。ズバリ黒川だ。
結局今日は何も話せていないのだ。それにもかかわらず今日は黒川に恒例となっている料理を教える日だ。てかもう俺が教えることはないと思うのだが…。
今日は思いっきり避けられているような気がする。そんな黒川が家に来るのか…。
ピンポーン!
来てしまったのでおとなしく玄関まで行く。
「お疲れ、とりあえず中に入って。」
「う、うん。」
ぎこちない返事だったが黒川は素直に入ってきた。とりあえず気まずいのも嫌なので何とか場を持たせよう。
「なぁ、」
「ねぇ、」
「「…。」」
まさかのセリフがかぶってしまった。これじゃあ、ますます気まずい。
「あのね、今日は別に避けていたわけじゃなかったんだ。だからその気にしてたらごめんね?」
そんなことを思っていた矢先に黒川が切り出してくれた。避けられていたわけじゃないのはほんとに良かったと思う。思うんだけど…。
「いや…大丈夫だ。」
女の子の上目遣いずるくないか?????こんなの天然にしろ意図的にしろ全人類許すだろ。少なくともそれぐらい俺には破壊力があった。
「とりあえず今日はオムライスを作ろうと思う。」
我ながらごまかし方が下手だと思う。でも仕方ないだろ。
「おー、いいね。」
黒川は何と目を輝かせていた。オムライス割と好印象そうでよかった。
「まずは、玉ねぎをみじん切りにだな。」
「任せてっ。」
そう言って黒川は手早く玉ねぎのみじん切りに取り掛かる。こうしてみれば本当に料理の腕が上がったと思う。
時間がもったいないのでその間に俺も鶏肉を一口サイズくらいに切っておく。ほかにもマッシュルームを加えたりする過程もあると思うが俺の家では基本的に鶏肉と玉ねぎだけだ。
「あとはバターを引いて、玉ねぎと鶏肉を炒めて…。」
黒川との料理はその後順調に終わった。今日最初に会った時のきまずさなどなく、すっかりいつもの調子が戻っていた。オムライスの出来も完璧でとても美味しかった。
だがこの時、俺と黒川の距離感がユウとクロであったことに気づいておけば、俺が素直に打ち明けれていれば、俺と黒川のすれ違いを止めることができたのかもしれない。
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