2.告白

第18話 上機嫌

「ん、今日の出来栄えは完璧だ。」


朝早くからいつものように俺は、弁当を作っていた。この日の昼食は何ととり飯だ。俺は、めちゃくちゃ炊き込みご飯が好きなので2週間に1回は作ってしまう。調理の難易度的に鶏かたこが多い。鯛は面倒。キノコは秋限定。


一人暮らしなのでそんなにいらないのだが残念ながら大好物なのでいつも多め(3合くらい)作ってしまう。それでも余裕で平らげてしまうが…。


まぁいつも食べ過ぎてしまい、その結果として後でお腹を抱えて次からは気を付けようと思っていることが多々あるもののなかなかこれがやめられない。


「食べたい…けど我慢だ。お昼まで耐えれば天国が待っているはずだ。」


今すぐにでも食べたい欲望を弁当の蓋理性で押しとどめることに成功する。炊飯器に残っている鶏飯は、夜に取っておきたいのでいつものように食パンにバターを塗って食べてから学校へと向かう。心なしかこの日の歩くペースは速かった気がする。



教室に入ればいつもの光景が入ってくる。固まってメイクの話やらニュースの話で盛り上がる女子たち。ゲームの話やしょうもない下ネタで盛り上がる男子たち。眼鏡をかけてデュフフフと笑いながら雑誌を見ている人たちもいれば一人静かに読書をしている人もいる。


とは言え俺には関係ないので軽い足取りで席へと向かう。しばらくすると友達と話を終えたのか智也がやってくる。


「おはよ、雄大。」


「おはよう。」


「今日はえらく機嫌がいいな?鼻歌も歌ってたし。」


「えっ!?まじで?そんなにやばかった?」


「あぁ、大丈夫。近くに来るまで分からなかったから。」


「良かった。」


もし誰か智也以外に鼻歌が聞こえていたら大変な目にあっていただろう。いや、言いふらされても交友関係がないから影響がない気がしてきた(泣)。


「そうだ。結局なんでそんなに機嫌がいいんだ?」


思い出したかのように智也が聞いてきた。

危ない危ない俺も危うく忘れるところだった。


「聞いて驚け。何と俺の今日の昼めしは、とり飯なんだ。」


あまりにも衝撃が大きかったのだろう。智也が立ったまま固まっているではないか。


「…それだけか?」


「え?そうだけど。」


先ほどから表情筋が機能してないので真顔になっている智也。大丈夫かこいつ?


「そうか、じゃあ俺は席に戻るから。」


「ま、待ってくれ智也。」


慌てて席に帰ろうとする智也を呼び戻す。


「おう。なんだ?」


「だってとり飯だぞ?あの人類の宝と称されるあのとり飯だぞ?炊き込みご飯四天王で頂点に位置するとり飯だぞ?これを食べれば3日3晩寝ずに働けるという最強の食べ物だぞ?」


「少しは落ち着け。さっきからとんでもないことを言ってるぞ?」


「すまない。」


まくしたてるようにしゃべる俺を慌てていさめる智也。それを抑えてくれたのは助かるがとんでもないこととはいったい何のことだろうか?俺が言ってることはいたって正常なのだが。


「まずお前の中でのとり飯が異様に評価が高いのが分かった。でも俺もたまに親が作ってくれるし、今日だって確かなんかの炊き込みご飯だった気がする。」


「なっ。」


親が作ってくれるだと?何とうらやましい家庭なんだ。俺なんか自分で作らなきゃならんのに……。思わず机に突っ伏してしまった。


「まぁ、元気出せよ。」


「おう。」


智也の気遣いがなんか余計に虚しさを加速させたような気がする。優越感に浸っていた俺がまるでバカじゃないか。


結局俺の気力が回復することはなく、午前中の授業はほぼ死んだ魚のような目で受けることとなった。

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