あなたが捨てた物の行き先

ひよこ

第1話

 真っ暗で冷たい。誰も何もない。怖い、 出来ることならここから消え去ってしまいたい。


どこか遠い…暖かくてにぎやかなところに…。












   



 「こんにちは。そんな所で立っていないで、どうぞ中に。」


その穏やかな声ではっとした。いつのまにか僕は大きな建物の前に立っていたようだ。

扉を開けてこっちを見ている人がさっきの声の正体らしい。

薄ピンク色の髪と目をしていて、見たところ男の人だろうが、上品でどこかはかなくも感じられる。



「ここは、カイバ図書館です。あなたが記憶を取り戻し、決断をする手助けをしてくれる場所ですよ。さあ、どうぞ。」


 



 促されるように中に入るとどこか懐かしいような本の香りが鼻をかすめた。ずいぶんと広いところだが、気が遠くなるほどの大量の本棚が建物内に立て付けられている。

棚はどれくらいの高さなんだろうか?

5メートルは越えていそうだ。



物珍しいその景色に夢中になっていると、男の人にそこの机に座っているように言われた。 「ちょっと待っててくださいね」と、言ってどこかに言ってしまったか、優しい声と微笑びしょうを浮かべる顔に、知らない未知の所に来ていることも忘れたように安心できた。




少しして戻ってきた男の人の手には紅茶があった。どうやらここで飲むらしいが、飲食しても大丈夫なんだろうか?本があるのに。


「いきなりですけど、自分の名前は分かりますか?」


本当にいきなりだ


「え?それは…もちろん、僕は…」


そこから先を僕は言うことが出来なかった。


僕は…




僕は…







なんなんだ?







 

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