弐之話『表の顔と裏稼業』

----------※重要:転載・二次創作等についてはこちら※----------

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今日も今日とて、ゲンジを連れてファルアのいる喫茶店へ行く。

俗にいう『午後の優雅なティータイム』というやつだ。

……これでも私は貴族、ジルエット家の一人娘なんだからな!お茶を嗜むのも普通だからな!

私はその……普通の貴族よりも武術が好きで、ティータイムなんかよりゲンジを締めてる時間の方が楽しいだけなんだからな!

「うぅ……何だか急に寒気がしましたですじゃ…」

「最近ちょっと肌寒くなってきましたからねぇ~。お姫様も女の子なんですし、もうちょっとオシャレに厚着してもいいんじゃないですか?」

ファルアが私の服装を見て言う。

私の一張羅は、貴族としての威厳を保ちながらも、武術で動きやすいようになっている。

そのせいで、ちょっとオシャレとは縁遠いデザインであることは否定しない。

「ファルアはそう思うのか。でも、私はこう……ヒラヒラしたのは好きじゃないんだ。」

私の年代用にアレンジされた服は、大概フリルというか、ヒラヒラしたものがついている。

それはそれでオシャレなのだろうが……動きにくいし、そもそも私の趣味ではない。

「そうですかぁ…残念です。でも、お姫様も可愛いんですし、オシャレすればきっと男の子にモテモテですよ。」

……それこそ、今の私は色恋沙汰に興味がないからなぁ。

とはさすがに言えないが、まぁ苦笑いで適当にやりすごしておく。

そんな感じで『午後の優雅なティータイム』を満喫していると、店の奥から太った親父が現れた。

「ファルア、例のアレが来ているぞ。」

「はいはい~。あとで確認しておきますねぇ。」

それだけ話すと、太った親父は店の奥に引っ込んでいった。

「なぁ、例のアレって何だ?」

「ん~、これはお姫様にも言えませんねぇ。乙女のヒミツというやつです。」

と、はぐらかされた。まぁ、無理に聞き出すようなことでもないだろう。

「ファルア殿、今のはこの店の店主ですかな?」

「えぇ、店のオーナーさんです~。ただの太ったおじさんに見えて、結構偉いんですよ~。」

ということは、店絡みで何かあったのだろうと推測する。

ならばあまり長居するのも悪いかと思い、ゲンジに合図した。

「では、ワシらはこの辺りで失礼しますじゃ。お代はここに。」

「はいはい~。またのご来店を~。」

ファルアの営業スマイルに見送られ、今日はこのまま家に帰ることにした。

この時、私たちは知る由もなかった。

同じ日にもう一度、別の場所でファルアを見かけることになる、などとは……



あれから、私は機嫌が悪かった。

いつものようにゲンジを締めて遊んで…もとい、修行していたら、母様に呼ばれた。

曰く、『季節が変わって肌寒くなるから、仕立て屋に頼んで新しい服を作ってもらった。』と。

私は今の一張羅が気に入っているが、まぁ試着だけならと思っていた。

ティータイムにファルアと話していた時のような、ヒラヒラな服を着せられて終わりだろうと思っていた。

……それが、どうしてこうなった。

厚着などというレベルではない。厚手の服の上に何枚布を着せられたか。

どこかの国の『十二単(じゅうにひとえ)』というものを再現してみた、と仕立屋に聞かされた。

確かに、権力者や貴族が好みそうな、煌びやかな装飾がたくさんついている。

……これを着て、私に戦えというのか。

そんなことに驚いていた私だが、これで終わりではなかった。

仕立屋に着せられた動きにくい服のまま、今度は写真を撮られた。

曰く、『あなたもいい歳なんだし、そろそろお見合いの一つでもしてみたら?』と。

もうね、阿呆かと。馬鹿かと。

あなたは私をいくつだと思っているのだ。私はまだ11歳だ。

お見合いなんて、私には早すぎる。この歳で結婚なんて、微塵も考えてはいない。

このまま屋敷にいたら、あっという間に縁談の話がついてしまいそうだった。

だから、逃げてきた。一人で。ゲンジも置いて。

仕立屋に服を返し、いつもの一張羅を着て、一目散に屋敷を飛び出した。

他に行くあてが無かったから、仕方なくファルアのいる喫茶店へ向かった。

でも、そこにファルアの姿はなかった。

どうやら別の用事があるようで、今日は早く店を出たらしい。

そんなわけで今、私の機嫌は宜しくない。

もし今ゴロツキに出会ったら、生かして帰すほど甘くはない。

「さぁ、社会不適合者ども!私を襲え!返り討ちにしてやるぞ!」

喫茶店を出て、夕暮れの中央公園でそんなことを叫ぶ。

犬の散歩をしてる若い女の人が、何事かと私を見た以外は、誰もここにはいない。

……寂しくなんて、ないんだからな!

ふと、今頃ゲンジが私を探し回っているんだろうと考えてしまった。

「……そろそろ、帰っても大丈夫かな…」

そうこうしているうちに、空はもう暗くなっていた。

あまりゲンジを心配させるのも可愛そうだし、今日のところは大人しく屋敷に戻ることにした。

……そしてそれは、屋敷へ帰る途中で起きた。

今日の天気予報では、確か一日中いい天気だと言っていたはずだ。

だからという訳ではないが、私は予想していなかった。むしろ、想定外すぎた。

誰が夜のこの時間に上から人が、血の雨が降ってくるなどと予想していただろうか。

……私がやったわけじゃないからな!

「ぁ……悪魔だ…ぐふっ。」

落ちてきた男は、その一言だけ残して絶命した。

暗くて分かりにくいが、男が落ちてきた建物は高層ビルだ。

見たところ、こちら側に面する窓は全て閉まっているようだし、足元にガラス片が落ちている形跡もない。

「とすれば……屋上か!」

そう思い立った私は、興味本位でビルの屋上へ駆けていった。



好奇心は猫を殺す……だったか。

私は今、心底後悔している。

屋上に辿り着いた私が見たものは、数分前まで人であったであろうモノ。数体の死骸と物凄い量の血だった。

いや、ここに辿り着く間にも、既に多くの死骸を通り抜けてきた。

普段、悪党を平気でボコボコにする私も、こればかりは見ていて吐きそうになった。

ある者は心臓を、またある者は首筋を、鋭利な刃物でやられたようだ。

「一体、ここで何があったんだ…?誰がこれを……っ!」

その瞬間、背後から殺意を感じて前に飛び出す。

一瞬だけ、短刀の刃が月明かりに反射したのが見えた。

あのままあそこにいたら、私もここで屍になっているところだった!

「お前は誰だっ!」

「人に名前を尋ねる前に、自分から名乗るのが筋ではないですかねぇ~。」

この、ちょっとのろい感じの声、聞き覚えがあるような…?

「…って。どうしてお姫様がここにいるんですか?」

「まさか…ファルアか!」

服装はぴっちりとした黒いボディスーツに、マフラーで口元を隠している。

怪しさ全開の見た目だが、確かにファルアの声だ。

「はいはい~。ようこそいらっしゃいませ~。」

……何だか、この声を聞いていると緊張感が失せてくる。

だが、この惨状を招いたのが彼女であるなら、問いたださねばなるまい。

「ファルア、これは一体どういうことだ!?」

「このお仕事、お姫様には見られたくなかったんですけどね~。」

…そうか。これが昼に言ってた『例のアレ』か。

ということは、あの太った親父もコレに一枚噛んでるわけか。

「でも、本当にごめんなさいね~。このお仕事で『目撃者は全て消せ』っと言われていますので…さようなら。」

こちらの頭が追い付かない状況で、ファルアが先に仕掛けてきた。

明らかに目の色が違う。これは…確実に『殺し』に来る目だ!

だが、私も素人ではない。ファルアの凶刃を、右腕ごと捕まえた。

「あらら、さすがです~。ゲンジさんの心労もお察し致しますねぇ~。」

私に腕を掴まれた体勢のまま、ファルアは私を両足で蹴り、距離をとった。

「こんどはこちらから……痛っ!」

攻めてやる!と思って踏み出した足の裏に、何かが刺さる。

よく見れば、私の周りに棘のようなものがたくさん落ちている。

「お姫様やゲンジさんのような方は、正攻法では私も辛いので…少々卑怯とは思いますが、ご容赦下さいませ。」

そうか、これで私の動きを封じているのか。

戦い方には色々あるものだと感心していると、またしてもファルアが襲い掛かってくる。

それを避けるために動くと、足元の棘を踏んでしまう。

これも痛いが、それ以上にファルアの攻撃が恐ろしい。

この手の仕事に関してはプロなのだろう。攻撃に一切躊躇いがないような感じがする。

見たところ、ファルアの攻撃は闇に潜んで、死角から攻めてくる手法だ。

となれば、私がここで勝つためには……何とか『正攻法』で拳が打てる状態を作り出すこと。

「食らえーっ!」

そんなことを考えながら、迫り来るファルアに拳を振るうも、いとも簡単に避けられてしまう。

やはり、夜は目が利かない。建物の屋上だから月明かりしか光が無いし、何よりファルアが黒いスーツを着ているから尚更だ。

とはいえ、足元の棘はあらかた踏み尽くしてしまったか、歩いても刺さるようなことは無くなっていた。

……もう既に、私のお気に入りの靴は穴だらけなんだけど。

「下が騒がしくなってきましたねぇ。やっぱり、一人下に落としてしまったのは失敗でした。」

今頃は野次馬や自警隊がこのビルを包囲しているに違いない。

「なぁ、ファルア。まだ続けるのか?」

「ごめんなさいねぇ。これもお仕事なんです~。」

相変わらずファルアの口調はのろいが、攻撃の手は休まらない。

「でも、そろそろ本気で終わりにしないと、始末がつかなくなりそうですので…これで本当に最後です。」

その瞬間、視界からファルアが消えた。

だが、殺気だけを頼りに直感で左後方に裏拳を放つと、一撃がファルアの腹を捉えた。

それはファルアにとっても想定外だったのか、彼女は持っていた刃を落とした。

「とりあえず、靴の礼は済ませたぞ。コレ、お気に入りだったんだからな。」

「…っ!本当に素晴らしいです。今のは誰にも破られたことが無いんですが…」

「それは、相手がド素人だったからだろう。私と一緒にしてもらっては困る。」

私の強烈な一撃を受け、ファルアは数歩後ずさった。

「ですが、私もこの手のお仕事は慣れてますから。確実に遂行させてもらいます!」

言葉が聞こえてすぐ、私は脚を掴まれ、そのまま投げられた。

何とか空中で体勢を立て直し、両足でしっかり着地した……つもりだった。

……まさか、ファルアがここでまた撒き菱を使っている等とは、思いもしなかった。

いきなりの痛みに、後ろへ下がってしまう。が、それが良くなかった。

私が下がった先に、屋上の足場は続いていなかった。私はファルアにしてやられたのだ。

私の体が滑り落ちたが、何とか両腕だけ端にしがみついた。

充分だ。まだ立て直せる。そう思って、腕に力を入れてよじ登ろうとした。

…しかし、それだけの隙を見せれば、もう既に私に勝機は無く。

私の頭の上から、ファルアがこちらを見下ろしていた。

「……私の負けだ。煮るなり焼くなり好きにしろ。」

「お姫様…今まで有難うございました。表の私としては、ご贔屓にして頂いて嬉しかったです。」

そう言って、ファルアは足場を掴んでいる私の手を蹴り落とした。

支えるものがなくなり、私の体は宙に舞った。

あぁ、これで私の人生も終わりか。いわゆる、ゲームオーバーというやつだ。

まさか、最期はファルアに殺されることになるとは、夢にも思わなかった。

真っ暗な夜空に浮かぶ月を見ながら、ゲンジは今頃どうしているのかと考えていた。

きっと、私を探してくれるだろうか。

私が死んだら、涙を流してくれるだろうか。

いや、今まで私が散々締め上げてきたのだ。お払い箱になって清々するだろう。

そうしたら、ゲンジはどうするのかな。やはり『無影空拳』の伝承者として生きるのだろうか。

結局、それらしい挨拶もしないで出てきてしまったし、最期に一目でいいから会いたかった。

もし私が、落ちてから数分程度でも生きていられたなら、ゲンジの姿を見ることが出来るだろうか……

何だか、色々ありすぎて何を考えているか分からなくなってきた。

あとはこのまま、風に身を任せてしまおう……

……やっぱり、肌寒いな……

……明日から、ちょっとだけ厚着をしようか……

…………

……


「姫ぇ―っ!」

突然、下から抱きかかえられる感触がした。

「…ゲンジ!どうしてここにっ!」

「どうしてもこうしても、姫がなかなかお戻りになられぬので、心配になり探しに参りましたですじゃ!」

そうしてこの人だかりを見つけ、何事かと思って見ていれば、私が上から落ちてきた…と。

……よく月明かりだけで私だと分かったな。

「もうすぐ自警隊が突入致しますじゃ。今日はこのままお帰りに……」

「何っ、動くというのか!馬鹿っ!まだ上にファルアが……!」

「何ですと!?ここにはファルア殿もおられたか!」

ならばこうしてはおれませぬ!と、ゲンジは窓枠の僅かな段差を器用に蹴りながら、私が落ちてきた方へ向かって飛び上がる。

……いずれ、私にもこんな芸当ができるようになるかな。

と考える余裕が出てきたあたり、私はまだまだ死なないようだ。

ゲンジは私を抱えたまま、あっという間に屋上まで飛び上がっていた。

やはりファルアのダメージは大きかったか、膝をついたまま休んでいるようだ。

「よくやった、ゲンジ!このまま私を、あの黒づくめの奴のところに全力で投げ飛ばせ!」

「…!?お姫様、どうして!」

「御意ですじゃ、姫!」

私は、ゲンジに敢えて『ファルアのところに』とは言わなかった。

この暗い中で、しかも一瞬の出来事だ。いかにゲンジとて、あれがファルアだとは思うまい。

それに、あれがファルアだと分かってしまえば、ゲンジにも隙ができてしまう。

そのせいで私と共倒れになった、なんて事態は避けたい。

「これは、私を屋上から蹴落とした礼だぁっ!」

もはや立てないファルアの、マフラーで隠された顎の部分に、私の蹴りが直撃した。

今度はファルアが勢いよく吹っ飛び、階段へと続く扉に体を強く打ち付けた。

「どうやら、私も悪運だけは強いみたいだ。」

「……本当ですね…まさか、お姫様が舞い戻ってくるなんて……私にも想定外でしたよ……」

今の一撃で頭を強烈に揺さぶられたか、座ったままでファルアが言う。

「ん!?今の声……姫、まさかこの黒づくめが……ファルア殿!?」

「痛たた…こんばんは~、ゲンジさん。その通り、私ですよ~。」

私の蹴りでマフラーが緩んだのか、口元が見えた。やっぱりファルアだ。

「ファルア、一体どういうことか説明してもらうぞ!」

「……私は、お昼は喫茶店『クローバーハーツ』で働くウェイトレスさんなのですが、夜は依頼を受けて潜入や暗殺をしているんです。」

いわゆる、裏稼業というやつらしい。

話を聞くと、喫茶店の親父が仲介して、ファルアに裏仕事が届くシステムのようだ。

昼に会った時、『例のアレ』と言われた話がコレの事だったのだと、ファルアは続けた。

「オーナーは、裏社会では有名な人なんです。それに顔も広くて……こういったお仕事が、月に3回は届きますねぇ。要人の暗殺、機密資料の略奪……私がするお仕事は、裏ではいいお金になるんです。今日のお仕事は、暴力団組員の暗殺…追加で『目撃者は全て消せ』という話でした。」

さっき、ちょっとだけ聞いた部分だ。

屋上に転がっているこの死体どもは、ファルアの裏稼業を見てしまったのだ。

「いつもなら、このままさくっと一人片づけてお終い……のはずでしたが…」

ターゲットだった組員は、無線式の報知器を持っていた。

それを押されたと気付いた時、既に部屋の周りには他の組員が押し寄せていたという。

「今回のお仕事、『目撃者は全て消せ』と言われていましたから…私はその通りに任務を遂行しました。」

仕事を見られた組員を殺しては、その瞬間を別の組員に見られ、そいつを殺しては…という連鎖を繰り返すうちに、いつのまにか屋上にいたということらしい。

そうして、屋上でやりあっていたうちの一人が斬られた直後に身投げをし、それを私が見つけて…始まりに至るというわけだ。

「ですから私のお仕事は、お姫様を蹴落とした時点で終わっていたんです。」

「私も、まさかゲンジが助けにきてくれるとは思ってなかったが……」

「そして、想定外の反撃を受けて、私の逆転負け……というお話です。聞いておられますよね、オーナー?」

突然ファルアが、扉の向こうに話しかける。

呼びかけに応えるように扉が開き、向こう側から喫茶店の親父が現れた。

「私は目撃者である彼女に負けました。今宵の仕事は失敗…ということで……」

「まさか、お前が負けることになるとはな。確かに想定外だ。だが……」

親父は懐から拳銃を取り出し、私たちに向けた。

「この場でこいつらを始末すれば、お前の仕事は完遂されるのだ。」

ゲンジが私をかばうように前に出る。

「ファルア、依頼主や私に無断で情報を吐いたお前にも後で罰を下す。だが、ここでお前が始末をつけるのなら罰を免除してやろう。」

言われて、ファルアはゆっくりと立ち上がる。

ゲンジが動こうとするも、親父に拳銃をつきつけられていては分が悪い。

「……では、今宵のお仕事を果たします。さようなら……」

ファルアの短刀が煌めく。

刃は正確に、喉元を捉えた。……喫茶店の親父の。

「が…っ!ファルア…裏切るか…!」

苦しそうに、そう声を絞り出す。

「申し訳ありませんが、これ以上こちらに付いていても、私に利益が無さそうですので…」

曰く、今回の一件で難癖をつけては、無理難題を吹っ掛ける気だと。

私にはよく分からないが、裏社会ではそういうものなのだろうか。

「本日にて裏稼業は廃業致します。ご利用、有難うございました。」

ファルアが短刀を鞘に納めると、親父は絶命し、倒れた。

「…は~。一件落着ですねぇ~。」

「それ、ファルアの言っていいセリフなのか?」

「まぁ、何はともあれ、姫とファルア殿が無事で良かったですじゃ。」

少し前まで本気で殺されそうになっていたとは思えない程、和やかな空気だった。

「…なぁ、ゲンジ。何か忘れてないか?」

私がそう尋ねた時、階段の下からバタバタと複数の足音が響いた。

確か、私が落ちてゲンジに救われた時、自警隊が突入するとか言っていたような…

「……ゲンジさん、いけますかぁ?」

「行くしかなさそうですな。姫、しっかりワシに掴まっていて下され!」

ゲンジは私を抱え、ファルアと一緒に駆けだした。

どうするつもりなのかと、聞くことはできなかった。

何故なら、その時既に私の体は宙を舞っていたのだから。

要するに飛び降りたのだ。ビルの屋上から。

でも今度はゲンジに抱えられながら。隣にファルアもいて。

二人は器用に別の建物の屋根に飛び移りながら、足早にあの場所を離れた。

私は、抱えられたまま空を見上げる。

月はもう既に高く輝いていた。

……今夜は、ゆっくり寝られそうだ…

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